2016-10-01から1ヶ月間の記事一覧

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康太は大学の入学式に出席しないというミキにさっきから一生懸命だ 「ねぇ、姉さん、頼むよ! 大学にこうして入学できたのも姉さんのおかげだよ あの時に、姉さんが帰ってくれていなかったら じぶんでも、怖いよ」 そして、バイトのお金を差し出した この春…

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「ミキちゃん、そろそろ、嫁にでも行ったほうがいいよ 康太はしっかり者だし、爺さんは あれだけ健康に気を付けているんだから ミキちゃんいなくてもやっていけるさ」 近所のおばさんたちが気軽に声をかける ミキが小さな子供時分、この家は近所中から嫌われ…

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康太はみぃが母親のところへ行ったことには 何も言わなかった ただ、ひたすら中学受験に向けて勉強していた 爺さんは 「みぃも行きたそうだったし あれも、今までとは違ってまともな母親の顔をしてたしな」 それでも、みぃの面倒は乳飲み子の時から 自分が全…

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「みぃ」 「え?どうして?なんで? あ、もしかして今回、あの人、少し余裕がありそうだったから みぃに何かおいしいものでも食べさせて服でも買ってあげようって そういうことじゃない?」 ミキの中ではそれが精一杯の母に対する想像だった 「ランドセルだ…

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帰ってみると母親はいなかった 「なんだ、もう、出て行ったの?」 爺さんがテレビを見ながら知らんふりをしてる 今夜はすき焼きにでもしようと 材料を買ってきたが、あの母のことだ 挨拶もなしに出て行ったとしても仕方ない 「おじいちゃん、今晩はすき焼き…

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人間同士は、単純な問題ならば分かり合えるかもしれないが きっと、それは母親であっても 分かり合うことなんかないのだ 分かり合えるという人は幸福だと思う それは運がいいのだ そういう母親に生まれたかった 自分が憧れた翔子、沢村、 そばに寄り添いたい…

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爺さんは穏やかになり 康太は都内でもトップクラスの国立中学を狙えるほど 成績が上がってきたころ みぃがそろそろ帰ってくるからと みぃの好きなパンケーキでもおやつに焼こう そう思って小麦粉を卵と混ぜる 爺さんもパンケーキは大好きだ 康太には塾用の弁…

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父親がご飯を食べている間にあわてて作ったおにぎり 中身はおかかしかなかったのだが その大きなおにぎりを三つビニールに入れて渡した 「お茶は買ってね 体壊さないでね!」 そう普通に言っただけなのに 父は泣きそうな顔になって出かけていった 普通の、ご…

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父親は昔からある父と母用の古いせんべい布団に 嬉しそうに入るとすぐにほっとしたように寝てしまった もちろん、ミキがこざっぱりと清潔に干したりしておいたものだ 朝一番に起きて味噌汁を作り始めると 康太も毎朝、同じように起きて塾の予習をしている い…

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父親に風呂に入ってもらい 家にあった父の服で、くつろげそうなものを出す こざっぱりと洗って軽くアイロンをかけてある 風呂から上がった父は それを着ながら、ほんとうに嬉しそうにしている みぃの好きな甘い卵焼き 康太の好きなアジのフライ 爺さんが食べ…

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毎日はあっという間に過ぎていき 年末にはボーナスが出た!と父親が帰ってきた 父親はすぐに気が付いた 玄関の前で掃除をしているミキに 背中から声をかけた 「ミキ!ミキ!なのか?」 振り向くとかなり老けた父が立っていた 日雇いから日雇いで真っ黒に日に…

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みぃは幼稚園でなにが会ったかを しゃべるのに忙しかった 「おゆうぎ、じょうずにできたよ こんど、発表会があるんだって おねえちゃん、きてね!」 「まぁ。みぃは踊りの才能があるんじゃない? この間庭で踊ってくれたの、すごく上手だったもの ぜったいに…

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そのご飯を三人で食べていると 爺さんがぽつりと 「もう帰ってこん」 そう言ってミキを見た それは寂しくないかとか 子供たちがかわいそうとか そういうことじゃなく 金銭的に大丈夫か? そういう意味だった ミキはうなずくと 「大丈夫!」 そうはっきり言い…

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もう、いいよね・・・・・ その口ぶりはここには思う、帰ってこないということだ 「みぃはどうしたの? あの子は連れて行こうかしら?」 何を言っているのだろう みぃをちゃんと教育できると思っているのだろうか 教育なんて言葉も知らないだろうけれど 「幼…

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その言葉に少し喜びが入っていて ミキはそれを少し感じ取って なんとなく嬉しかった 「何?いつ帰ってきたの? ここにずっといるの?」 そう言われてうなずくと 「仕事は?」 「やってない」 「もったいないじゃん。あ、丁度いい! 今、女の子いないって彼が…

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母親と会うのは何年ぶりだろうか? ミキもすぐには母とはわからなかったが・・・ 老けた! 母親は大嫌いだった 派手な趣味の悪いセクシーな服 金髪に近いような茶色の髪 それでも肌は美しく、真っ赤な口紅が 嫌いではあったが、それはそれで美しいと 子供な…

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突然、玄関の戸が開いた ミキが帰ってから立て付けは直してあった 「あら、スッと開いてるじゃん 何年も使ってると、ちゃんと開けられる時期も来るのね みぃ?みぃ?」 そう言って母親が入ってきた みぃは幼稚園に行っている 爺さんは近所の将棋友達のところ…

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ミキは今まで老後のためにとためていたお金を 一気に吐き出した 爺さんにはとにかく静かに安らげる時間を みぃは幼稚園を見つけて ごくごく普通に育つことを祈った 母親のような男好きになりませんように そう祈って、かわいい洋服を着せたりして かわいがっ…

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「笑わないか?」 「笑うようなところなの?」 「いや、図書館」 その答えですべてこの子の気持ちは分かった 自分もそうだから この子は間違いなく自分の弟だ ミキはまっすぐに康太の中に入った 「私、お金結構持ってるのよ 中学、私立に行く? あんたが狙っ…

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ミキの服もしっかり見ていた 「あんた、なんか、まともそうだな! お金は給食費で払った 今まで払わなかった分もあるから ほとんど、残らなかった あ、でも、大丈夫 じいさん、父さんや母さんがくれるお金から へそくりしてて、俺らにろくなもん食わせないく…

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「姉よ!」 康太は驚いたようにミキを見たが 驚いた顔はすぐに苦笑いに変わった その横顔を見て ミキは父さんにそっくりだと思った 「あの、女! 俺には何人兄弟姉妹がいることかだな! くそ!」 ミキは自分が小学校のころ同じことを思っていた 兄弟姉妹がほ…

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弟と妹 この可能性については全く考えていなかった ミキが中学を出るまで一人っ子だったし 自分以外に子供を作って育てるなんて あの母親にできるのか? ミキ一人でうんざりしていたはずだ それでも、この爺さんがそうだというのだから そうなのだろう そし…

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元の自分のすべてを消すと ミキは今からこそ翔子になりきろうと思った まず、ざっと、掃除をして爺さんを安心させた 「お金は出す!でも、私が必要だと思ったところだけね! 食費は?どうなってるの? 父さんや母さんは? この子供たちは何?」 こんなことを…

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反論なんてできない その通りだ ここが嫌でここには二度と帰ってこない そう、決めていたのに 場所が変わっただけで、同じ生活をしている こぎれいなアパート 今時のファッション雑誌のような食生活 厳選されたファッション それでも、自分は今、ここにいる…

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しばらくぶりに会った、老人特有の懐かしがって 喜ぶ感じもない みぃという女の子がそのあたりの大人の服を巻き付けたりして 転ぶと、慌てて、服を引っ剥がし 「この服をしわだらけにするとどやされるぞ!」 そう言って怒った 今の生活が手いっぱいで昔なん…

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爺さんは慌てて出てきた 腰が痛そうで、腰もずいぶんまがっていた 昔と違っているのは爺さんがやはり年を取っていたことだ 「えっと~、ああ、さっきの 道わかりませんかな?」 ミキはもう、何がか吹っ切れていた 自分の中で沢村と一緒になれないのなら どん…

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まったく一緒だった 自分が大人になったことも忘れて 鮮やかに子供のころの画像がよみがえった 玄関を入ると、汚い靴が散乱していて どれも、破れていた 玄関を上がったところにはあの頃と同じ母親のバッグが置いてあった たしか、ここにお金が入れてあった…

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小さな女の子は爺さんが話している 知らない女の人であるミキを見上げてニッコリ笑った この子は一体、誰の子供なんだろう? すると、ランドセルを背負った男の子が帰ってきた 小学校五年生くらい 「おお。帰ったか。 すぐ、そこのコンビニに行ってなんか買…

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玄関の前に立っているミキを見ても じいさんは何もわからなかった 「なんか用かね? ああ、この先だろ! 右に曲がって、少し込み入った路地を抜けて、 左にちょっと、言ったところだよ! 有名な台湾料理の店! 最近、テレビに出たとかで探しに来る人が多いか…

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前にたたずんで立っていると 小さな女の子が出てきた ミキの子供のころのように いかにもどこからか拾ってきたような 恰好をしている 手にはスコップを持っている さっきのバケツの汚い水を混ぜ始めた そして、嬉しそうに きゃっきゃっと笑っている すると、…