2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧

誘惑の花

田舎にはたくさんの空き家があった 京子の育った家は、まだ、若いころに 両親が亡くなったのをきっかけに、更地にして 安い値段で従弟に売った 従弟はそこも売って、子供たちが住んでいる大阪に行ってしまった 空き家は珍しくないのだが 久しぶりに行った、…

誘惑の花

心が何となく、痛くなる スピカは俊哉と美奈子の孫なのだ 健作に相談すると 苦々しい顔をして 「りさ子は京子さんにスピカを預けて消えてしまった その、スピカの母親は僕らのところに訪ねてきたこともない いいんじゃないですかね 僕はスピカの将来を楽しみ…

誘惑の花

それから、スピカは数学の専門家になり アメリカに留学し、世界でも有数の学者になった りさ子はそんなことは全く知ることもなく あれから一度も連絡はよこさなかった 京子はそのことに呆れるよりも ホッとしている 人間の繋がりなど、本当にわからない アメ…

誘惑の花

ああ、やはり親子なんだな 二人はテーブルの上のケーキはそっちのけで 数学に取り組み 自分なんかが育てるよりも この父親と毎日、数学を解いて 暮らしたほうが幸せなんじゃないかと思う 家に帰る道、スピカは幸せそうだった 「あの人がお父さん! すごくよ…

誘惑の花

京子も何と言っていいかわからないし スピカもどうしていいかわからない しばらく、困っていると 京子は買ってきたジュースとケーキを取り出して テーブルに出しながら 「食べる?」 そう聞くと、スピカは手に持っていた数学の本をテーブルに置いた 「あ、そ…

誘惑の花

連絡を取ると、父親は少し逡巡していた 自分の娘だからぜひ会いたい! そう言う気持ちがないとは言えないが 彼の場合、親として無責任なのではなく 父親としてどう接していけばわからない そんな気持ちであるように思えた 日曜日にスピカを連れて、あのアパ…

誘惑の花

スピカは綺麗になった髪の毛を触りながら 「京子さん、ありがとう 私会ってみたい」 京子はスピカが何かしてくれたときは 必ずありがとうと言う だから、スピカも同じように、ちゃんとありがとうと言う これは、スピカが自分の子供でも孫でもないからではな…

誘惑の花

京子はりさ子を見つけてきて殴りたかった そのスピカが父親だと思っている男は 本当の父親が留学している間に 引き入れた、浮気相手の男だろう こんなこと、スピカには説明できない 「もしかしたら、その人はパパじゃなかったかもしれないわ 私が会ってきた…

誘惑の花

スピカのうっすらと覚えている父親 いつだって、母親の側に座って母親を触っていた 色の白い背が高い、テレビの中のかっこいい役者さん そんな見た目なのに、すぐにスピカを蹴ったり どなったりした それが父のすべてで、そうなると母親も一緒にスピカを 殴…

誘惑の花

どうしようかと迷いながら お風呂に入り、髪を洗い、梳かして ドライヤーで乾かしながら そう言えば、あの父親の髪の毛はくせ毛だった この真っすぐの髪の毛はりさ子のもので そう言えば、俊哉も真っすぐな髪だった 「あのね、スピカちゃんのお父さんに会い…

誘惑の花

ここに来た時には、京子が出す普通の食べ物 白いご飯に卵焼き、お味噌汁、そんなものが すべて初めて食べるもののようで 何を食べていたかを聞くと ポテトチップス、コーラ、クリームパン そんな物ばかりだった 今ではバランスの取れた野菜がたくさん食事を…

誘惑の花

スピカの父親に会ってきて 彼はその当時、あまりスピカと関係してなかったかもしれないが ここに来た頃の小さいスピカにそっくりだった 俊哉にそっくりなりさ子の子供にしては 全く似たところがなく、すこし驚いた そんなことを考えていると スピカが帰って…

誘惑の花

「僕はいったいどうしたらいいんでしょう?」 京子は迷いながらも 「一緒に住みたいと願うのならば 私はもちろん、それに反対することはできませんし スピカが思うようにしてあげたいんです ですから、一度、会ってもらったらどうかと思うんですが」 彼は深…

誘惑の花

「母親がりさ子ですから心配はしたんですが やはり、子供は母親が見るのが一番ですし あのころ、父親代わりの男もいたようですし」 本当にまともな男だ 京子は今、スピカと暮らしているのは自分で 色々な都合で養女にしたのだが そこには深い愛もあることを…

誘惑の花

部屋の中にはやたら大きなパソコンがいくつかと 大きな画面 あ、京子は株のトレーダーなのかと驚いた さっき、持っていた本は本居宣長関係か何かだったからだ それでも、部屋は清潔で、整えられていた 京子の話を聞きながら、本格的なネルドリップで コーヒ…

誘惑の花

スピカが学校に行っている間 あの、アパートを訪ねてみた まさか、りさ子はいないだろうが、念のため ドアを叩いてみる 出てきたのは太って眼鏡をかけている、大男だった もう、きっと、引っ越しているだろう、そう思ってドアを叩いたのだが その顔はスピカ…

誘惑の花

京子はスピカを私立の小学校にやるのはやめた それはお金がかかるとか、面接で両親がそろっていないと 合格しないとか、そう言うことではなくて スピカがものすごく、勉強が好きになって 出来がお受験とかそう言うレベルではないのだ 今は公立の小学一年生な…

誘惑の花

京子はハッとした ああ、彼女の戸籍をしっかりしなければ お受験なんかとんでもないことだ だいたい、自分の子供たちが受験の面接のときに 両親そろっているのが、 大っぴらには言われていないが 受験の絶対条件だった気がする 小学校受験では離婚まじかの夫…

誘惑の花

家の中ではいつだって、スピカと京子のふたりだ 京子は生まれてから3年、父からも母からもまともに 愛されることもなく、最後は母に捨てられる この子にできるだけのことをしたい それが、俊哉とは人生を共にしなかったが 万が一共にしていたら、スピカのよ…

誘惑の花

スピカは大人は京子以外は油断ならない 心の奥底に、そんな気持ちがあるのはよくわかった 京子のところに来た時 京子が髪の毛を梳いてあげようと、 ふっと、頭に手をやったことがある すると、首をすくめ手で自分の頭を覆った やはり、父親だけでなく、りさ…

誘惑の花

さて、スピカはどうしよう? 京子の子供たちはスピカに関して その経緯を聞き もちろん、昔、不倫した相手の孫だなんて話していないが 知り合いの孫で可哀そうな子である話はしている 母親がここに置いて逃げた話に二人とも同情し できるだけ良くしてあげた…

誘惑の花

自分の子供たちは少し遠いが電車で二つ先の 私立小学校の付属の幼稚園に入れた それはもちろん、その上の私立小学校に入れるためだ その頃の京子はこの、東京で勝ち組になるには 子供の学校は絶対私立だと理解していた どんなにお金持ちになっても、子供が公…

誘惑の花

「そうね~そうかもしれないわ」 そう答えた後に、りさ子が戻ってきたらどうしよう そんなことが頭をよぎったが そんな風に、子供がいるのに責任感もなく 男と逃げて、また、うまくいかないからと言って 帰って来ても、じゃ、スピカ仲良く二人で暮らしなさい…

誘惑の花

スピカは何も言わないが、りさ子には会いたいだろう 京子は実際にそんなことを経験したことはない 京子の子育ての周りは、専業主婦が多く 子供のために、夫の浮気やパワハラに目をつぶっている母親が多かった でも、テレビや本では親にどんなに虐待を受けて…

誘惑の花

スピカのことを考えて パパやママが出てくる絵本は片付けようかと思ったが スピカはパパやママが出てくる絵本を食い入るように見るようになった あ、パパがいてママがいて幸せな家族がいる そんな常識は決して良いものではない 子供にはいろんな子がいる 幸…

誘惑の花

スピカは親の話はしない 父親の話はもちろんのこと、りさ子のことも一言も言わない 京子はそれが心配だった 父親はスピカを叩いたのかもしれない りさ子は暴言を吐いたのかもしれない いえ、りさ子だって手をあげていたのかもしれない でも、これまでスピカ…

ミキの遺産

実家に帰ろうか? 今までの小百合なら実家に帰って 母に愚痴れば、すっきりとして次の日を迎えられた でも、最近は父も母も 雅紀とのなれそめを聞いても、章子が幸せなのが一番といい 康太の実家にしても もう、どうでもいいようなことを言うだろう あれから…

誘惑の花

最初にここに来た時には スピカはむくんだように小太りの子供だった 京子がいつも手作りで 野菜たっぷりの煮物、ほし大根と竹輪の煮物 ひじきと人参の煮付け、焼き魚 京子は子供がいるにもかかわらず 容赦なく自分の好きなものを食卓に並べた ご飯も白米では…