日記

ミキの遺産

実家に帰ろうか? 今までの小百合なら実家に帰って 母に愚痴れば、すっきりとして次の日を迎えられた でも、最近は父も母も 雅紀とのなれそめを聞いても、章子が幸せなのが一番といい 康太の実家にしても もう、どうでもいいようなことを言うだろう あれから…

ミキの遺産

「それで、章子ちゃんはショックじゃないの?」 父親の実家が風俗と切っても切れない家柄だなんて もう、中年を過ぎた小百合よりも 女子高生の章子のほうがよほどショックな気がするのだ 「ううん。私と雅紀のなれそめは知っているでしょう? 雅紀はバカだか…

ミキの遺産

章子はそのまま家を飛び出した そして、迷わず、速水の家に行った 話を聞いて速水は 「へ~小百合さんが探偵まで使って調べたの? それはまた、進歩じゃない それに、今、調べるなんて遅すぎね~」 そう言って笑った 章子のためにたくさんたこ焼きを焼きなが…

ミキの遺産

章子は今まで母の怒り方は いつだって上っ面だと思っていた 祖母の踏襲、見栄、母本人のため そんな怒り方だったから 少しも怖くなかった でも、今は本気だとわかる 本気だけれど、それって間違いじゃん 父の実家の人たちの職業をあげつらい ショックを受け…

ミキの遺産

小百合は怒りで震えていた いったい、自分が今までやってきたことは何だったんだろう 章子に関しては口には出さないまでも 失望させられることが多かった だいたい、自分はお嬢様育ちで勉強はしなくてもよい そんなスタンスで育てられたが 今、章子が通って…

ミキの遺産

母の言っていることは正しい 正しいけれど、別にいいじゃん それがすべてだった 母に言われたとおりのするのは、間違っていないかもしれないが 少しもやりたいことじゃない 小さなころから、そう、思っていたのだが だんだん、父も同じように考えているのを…

ミキの遺産

小百合はその言葉で、突然切れた! 「何言ってるのよ! ママがどれだけ苦労したと思ってるの! 生まれて、2歳から早期教育の塾に通って 幼稚園のお受験して あの、小学校に入るのも、どんなに気をもんだことか それからも、お友達のこととか 中学に入ったら…

ミキの遺産

小百合が止める間もなく 章子はすらすらと読み進め 「へ~パパのお母さん? おばあちゃんて大変な人だったのね ミキおばさんもみぃさんも、そんな感じの仕事してたんだね 可哀そう! 中学卒業して、すぐに、売られたような物でしょう でも、そこで、のし上が…

ミキの遺産

汚らわしい 小百合にはそんな気持ちが心にいっぱいに広がった 落ち込んで、夕飯の支度も忘れてボウっとしていると 章子が帰って来た あまりのショックで、章子にこの調査書の存在を知られてはいけない そんなことすら考えられなかったのだが 「あら、ママ、…

ミキの遺産

彼が弁護士であるから、東大卒であるから 立派な家柄だと思い込んでいた 貧乏な家であったことは知っていたが それは小さいころから読んでいたお話のような 貧乏な少年が、頑張って立派な人になる そんな刷り込みのせいで 小百合は康太に恋をしていたのだ で…

ミキの遺産

小百合は一気に嫌悪感でいっぱいになった 小さなころから、水商売なんてところは 会ってはならないもので 小百合が生きる世界には必要なものではない 母も父も、祖父も祖母も、みんなそうだ いや、実際は違うかもしれないが そう思って生きているのだ 祖父の…

ミキの遺産

母親代わりと言っても ミキは全く干渉しなかった いつも章子に温かいカードのついた 素敵なプレゼントをくれて、マネしたいものだと思いながらも つい、ごく普通のお返しとなった でも、みぃや速水の原点はそこにありそうで ミキの生まれた時から調べてみよ…

ミキの遺産

小百合は長いこと、康太の姉であるミキを尊敬していた 東大教授婦人、専業主婦、遊びに行けば完璧な 手作りのお菓子が出てくる お茶は庭のハーブで入れてくれる まず、その家が夫である教授の実家で 全く素晴らしい日本家屋だった そして、その中で昭和の頃…

ミキの遺産

小百合は今までずっと、康太の親族から 少しお客さん扱いされていたから 今の速水の言葉にビックリして 言い返すこともできずに 「あ、そうね、そうしてみるわ」 そう言ってそそくさと帰った その話を聞いた章子は笑いながら 「ガツンとやられたってわけね …

ミキの遺産

小百合は何もかも知ったほうが幸せなんじゃないか あまりにも上っ面で人生を生きている いや、小百合の実家が、人生の汚いところは全く見せないように 育てたのかもしれない 汚い所ばかり見てきた康太の親族とは大違いだ 速水は時々イライラしてそんなことを…

ミキの遺産

章子はこの話になると いつだって、半分本気で怒る 小百合に対して章子は少し小ばかにしたような そんなところがあるのだが 普段はまったく小百合を面白がってみている感じなのだ 小百合にしてみれば、何となく思ったことを口にしただけで あまり、深く考え…

ミキの遺産

「だって、中卒じゃない いくら速水さんが偉そうにしたって」 章子はこういう時の母親が大嫌いだ 「速水さんは偉そうにはしていないでしょう」 「あら、してるわよ! あの人自身も中卒だから恥ずかしくないのかもね 私だったら、中卒だと生きていけないわ」 …

ミキの遺産

何でも考え方が康太寄りの章子にしたら 結婚するときに、仕事をしていたわけでもなく 自分の貯金はゼロ でも実家の親から5千万も持たされてきた母が 速水やみぃの財産についてとやかく言うのはおかしい だいたい、あの二人は働いて財産を築いたのだ その前に…

ミキの遺産

小百合は章子に少し嬉しそうに 「速水さんのところの、星人君 そろそろ有名になってるかと思えば 何の話も聞かないわね~ パパの一族ってお金はあるし 頭もいいんだと思うけれど なんだか、変わってるわ あの子も、音楽留学って言っても 何か賞を取ったとか…

ミキの遺産

「やっぱり、そう言うことだったのね」 「そう、あの店で正二さんがお金を儲けて それを元手に株を始めて莫大なお金に増やしたのだけれど その、儲けたお金はお姉ちゃんが 障害のある人に優しかったから 口コミで、そのことが広がって お金のある障がい者な…

ミキの遺産

康太とみぃにその話をすると 康太は 「姉さんのことだから、その障害のある人に 何か優しく言葉をかけたんだろうな~」 速水はその時はそれにうなずいていたが 康太が帰って、みぃだけになると 「そうじゃないんでしょう?」 みぃに本当のことを聞いてみる …

ミキの遺産

「私の父はいわゆる、障害がある人間で 生きていくことに絶望していました 祖父は半生のすべてを、父に捧げていましたが 父は死ぬことしか考えていなかったそうです 祖母に対しては なぜこんな体に産んだのかと ほとんど毎日のように責めて、祖母は精神的に…

ミキの遺産

「あ、剣崎と言います あの、名刺を和尚に渡したのは 僕の祖父なんです」 速水は全く話が想像できずに コーヒーを入れて待った 「祖父はあなたのお母様であるミキさんに 深い恩義を感じておりました 一度、お礼ををちゃんと言いたいと思いながら あのあと、…

ミキの遺産

それを見ても、康太もみぃも全く心当たりはなかった 首をひねりながらも もう、ミキが亡くなって何年もたつし 何よりも、速水の両親は長いすれ違いや ミキの謙虚さゆえに、結婚までは色々あったのだが 二人はしっかり結ばれ、結婚できて、速水が生まれたこと…

ミキの遺産

そんな話をして和んでいると 速水が思い出したように 「そう言えば、この間、命日でも何でもなかったんだけど 息子がアメリカから帰って来たから お墓参りに行ったのよ そしたら、そこに綺麗な百合の花が供えて会って 和尚さんの話では、私たちが行く直前に …

ミキの遺産

康太はそのみぃの夫に 娘の婚約者がお世話になっていることもあって みぃはすっかり元気になってありがたかった 「章子ちゃん、婚約したんだって?」 「ああ、まだ、高校生だから、どうかと思ったけれど 雅紀君が早く結婚できるように 仕事の励みにしたいし …

ミキの遺産

速水にとっては叔父や叔母にあたる 康太やみぃはいまだに母の命日には 速水のところに立ってきて、母の話をしてくれる お墓参りに一緒に行って、速水の家で食事をする ミキの得意料理 ごく普通の肉じゃが、肉はもちろん豚肉 卵ばかりで中の具はネギと竹輪の…

小百合の幸せ

綾子は自分がどんなに幸せか気が付きもしない この、幸せで、頭の悪い奥様に コテンパンにやっつけられた かろうじて笑いながら別れるのが綾子の最後のプライドだった 小百合はいつものようにお金を払おうとすると だいたい、学生時代からの仲間は その後、…

小百合の幸せ

綾子は小百合を本気で憎むかもしれないと思う 今までは、なんとか、どんなに生まれで負けていても 子育ては負けてはいない そう、自負していたのに、章子の近況は 幸せそうで、とても自分の子たちには手に入れられないものだ 仕事をしていることは、コンプレ…

小百合の幸せ

ふたりとも、学費の心配のほうが 勉強の心配の後に来るような生活だ 小百合のところだった、章子は自分たちの母校にいて ごく普通の成績で あまりぱっとした所のない子だと聞いて 安心していた 彼氏ができて、何かと大変だった話は小百合から聞いた 小百合は…