その先

そんな電車の中だから

誰それの鞄の中には、

ラブレターが入っていたとか

男子の噂に誰それちゃんが一番だと

言われているとか

毎日、恋の話で満開だった

でも、私には関係ないこと

毎日、電車に乗ったら英単語の暗記か

夏目漱石森鴎外の小説を読んでいた


そんな学生列車の中に

同い年くらいの男子なのだが

いつも私服の子が混じっている

私たちの駅より前から乗ってくるから

中学は違うようだ

その先

高校時代の思い出は何もなかった

ただ、電車通学で

父が最寄りの駅まで

軽トラックで送ってくれる

電車に乗ると、もう、満席になる程

電車は混んでいる

この電車には県立の2校、私立の女子校の

3校の学生が乗っている


私が通っていた県立高校は

もともと女子校で偏差値で言うと

ここが一番高い

父は『昔憧れの女子高だった、この辺りじゃお嬢様しか行かないからな』そう言って喜んだ。

実は担任から、

ここから電車で2時間くらいある、

もっと偏差値の高い

県立高校も受かると念押しされたのだが、

私はどこでも良かったし、

父が喜ぶならこの高校でいいと思った。


その先

「うちは私に対して

無茶言わなかったし

私も親の言うことを聞いていれば

平和で幸せだったかな

澄子ちゃんは大変だったけど

立派な息子さんもいて

よかったじゃない」


「良かったのかな?」


「そう、こう言っていいものかどうか

わからないけれど、

お母様は亡くなられたんだし

これからは好きに生きればいいと思う」


澄子ちゃんはその言葉に

何かに吹っ切れたように


花ちゃん、一緒に彼のお墓参りに

行ってくれる?」


私はもちろん!とうなずいた。

その先

私は他の頭のいい子達のような

野望は全くなかった

大学に行ったり、田舎の村を出たり

そんなことはしたいと考えたこともなかった

田舎にいて、毎日本が読んで暮らせれば

何よりの幸せだった

親もそんな私に満足していたし

結婚だって、親が探してくれた人で

十分だった

私には自分で恋愛して、相手ができ

その人と結婚するなんて

まったくできる気がしなかったから

結婚も親が大人しい、優しい人という

カテゴリーだけで選んでくれたけど

それで、十分、満足だった

私と澄子ちゃんとの違いは

なんだったのだろう

その先

澄子ちゃんはひどく落ち込んでいた


「私、どうして母の言うことを聞いて

生きていたのかし?」


「それは、ほら、信之君が学生の頃調べたっていう、あれでしょう

仕方ないわよ

みんな、親を選んで生まれてくることは

できないからね」


「それはそうだけど

花ちゃんちは親に満足してたの?」


うちのことなんか、考えたこともなかった

うちの親は普通で、

私も言うことを聞いていれば楽だったし

田舎の村で勉強ができたことを

心から喜んでくれて

自慢にもしてくれていたから

険悪になることもなかった

 その先

あの、訳のわからない

お婆ちゃんと関わって生きるより、

よほど幸せでした

こうして、好きな仕事にもつけたし

あ、もう直ぐ、結婚するんです

結婚式にはぜひ、来てくださいね」


全てが思ってもいなかった展開で

澄子ちゃんにとっては

幸せな話のはずだ

生き別れた息子は、父の元で

立派に育ち

澄子ちゃんを歓迎してくれていた


私も澄子ちゃんと帰りながら


「いいわねぇ、信行君、しっかり者だし

結婚式が楽しみじゃない?

それより、何より

あなたが愛した彼は

あなたのこと

本気で愛してくれたんじゃない?

幸せでしょう?」

その先

その人は病気で亡くなったそうだ

横で聞いていて、なんと切ない話だろう

澄子ちゃんは何も知らないまま

全てが過ぎ去っていった

唯一愛した人だったろうに

あの母親の罪

もちろん、そうならないように

あの人から離れる勇気は

必要だっただろう


いくら、絶対君主だったとは言え

私からは考えられない

もちろん、学術的には

さっき信行さんが話していたような

理解すべきことはあったとは思うが

いくらなんでも、悲しい話だ


しかし、信行君は伸び伸びと


「これはこれでよかったんだよ

僕はおじいちゃんたちに育てられて

楽しかったし幸せだったし

父からは十分な愛情と

教育費をもらったからね