......の無い

父親は昔からある父と母用の古いせんべい布団に
嬉しそうに入るとすぐにほっとしたように寝てしまった
もちろん、ミキがこざっぱりと清潔に干したりしておいたものだ

朝一番に起きて味噌汁を作り始めると
康太も毎朝、同じように起きて塾の予習をしている
いつも通りの朝
爺さんも起きてくると味噌汁を作っている
ミキの後ろに立って、小声で

「母ちゃんが男と出て行ったことは言うな」

そう呟いて玄関の前でラジオをつけて体操を始めた
ミキも言わないつもりだった
爺さんは父親まで、この家を見捨てて出て行ってしまえば
お金に困るからだったが
ミキは父に言う必要はないと思っていた
父が可哀そうだからとかではない
こんなことはミキが小さいころから何回も繰り返されてきたことで
今回だって、男に捨てられれば帰ってくるのはここだ

父親はさっさと作業着に着替えている
今日から北陸を回るから
今度帰ってくるときは三か月先くらいだ
そんなことを小声でぼそぼそと言う

ミキが慌てて並べた朝ごはんをおいしそうに食べると
康太の頭をなでて出て行った
そして見送りに出たミキにお金の入った封筒を渡して言った

「ありがとうよ」