2017-08-01から1ヶ月間の記事一覧

発達障害の母

努力や成長なんかが馬鹿らしく思える私に 友くんからメールが来た 「園部洋治が帰ってきてるから ちょっと、出てこないか?」 園部洋治? 私はしばらく思い出せなかった 「誰?」 「ケロだよ!」 ああ、思い出した いや、思い出したどころじゃない 私にとっ…

そして恋人へ

佐竹夫婦の離婚問題は解決し もう、康太も優未とは会うことはなくなった そう、思っていた ここ、二、三か月仕事も忙しかったし ミツホと別れてからは真剣に仕事に打ち込めて 充実した日々を過ごしている すると、事務所の経理をやってくれている角野さんが …

発達障害の母

でも、それは全く間違いだったようだ 千絵さんから生まれて、千絵さんに育てられた三ちゃんは 少しも千絵さんに似ていなかった 本当に正直で優しい子だった それを村の人は、ちょっと、足りないからだなんて言っていたが 本当にそうだろうか? 足りなくても…

そして恋人へ

「え?私が主人を? まさか、叔母が見合い相手に連れてきたんですよ 釣り書きだけは立派でしたけどね あの人、生まれだけはいいから それに、それまで見合いした人とは全然違って 最初から綺麗だ、やさしい、素晴らしい人 そんな言葉を並べ立てて 私がそれま…

発達障害の母

私は結婚して子供を持った時 こんな母を持ったし、こんな村の生まれでもあるから 子育てには、本当に心を砕き そして、たくさんの書物を読み、ネットを検索し そしてできるだけ多くの親子とかかわるようにした そうやって見ていると、やはり、環境は大事だと…

そして、恋人へ

優未は何も隠さない弁護士である康太に興味を持った そして、この離婚はうまく治まった 母親は優未の親権をもったまま実家に帰り 優未が父のほうと暮らしたければ暮らせばいい そう、決めたのだ 母親はあきらめたように 「あの子が父親を選ぶわけがわかりま…

発達障害の母

母にも村の空気はわかっている しかし、よそから千絵さんの親戚が来て 立派な葬式を出したってことは 村ではちょっとしたセンセーショナルな出来事で 母はその空気に酔っていた 前の私ならば三ちゃんを殺したかもしれない母親の葬儀で その女と生前仲が良か…

康太の深淵

康太は自分の意見をこんな少女に 言ってもいいのだろうかと躊躇したが 優未が面白がって父のほうについていくと 決めたわけではないことを思う まったく非のない母親に育てられながら その母親に愛情を育てられなかった娘 もしかしたら父のほうに行くのも嫌…

発達障害の母

「夫も早く死んだしって、 殺したんだよ!」 「ちょっと、あんた、言っていいことと 悪いことがあるだろう」 私はおかしくて笑いそうになる 皆、千絵さんが殺したと確信している ただ、そんな恐ろしい人と付き合いがあったなんて わかったら、大変だから 口…

発達障害の母

葬式が終わって帰り道 三々五々、バラバラと歩いていると 話す声はいろいろ聞こえてくる 「まぁ、遠い親戚って、しっかりした人だったね 立派なお葬式だったこと」 「お墓は三ちゃんと旦那のところに入るんだろう? どっちも嫌がるだろうね」 「でも、別にお…

康太の深淵

優未は不思議そうに康太に聞く こういう話は母親は絶対しないし 学校の先生も当たり前のことしか言わない 父親は自分が楽しければ何でもいいから 優未に何か偉そうに話すこともない 「誰かの都合のため?」 「うん。まぁ、君のお母さんがどうかはわからない…

康太の深淵

「まぁ、人間に生まれて 誰もが本当の愛を知っているってわけじゃないからね でも、君の父親も君が好きなのは確かだけど これから先、君のために生きてはくれないと思うよ」 康太は人間が人間を生み出し そして、子育てや親孝行に何か意味付けするのは 間違…

発達障害の母

母はなんだかうれしそうに葬式に行く準備をしている 「行かなくてもいいんじゃないの?」 「何言ってるの?皆行くわよ! それが、この村の決まりだからね あんたも早く着替えなさい」 私は行きたくはなかったし 行く義理も何もないのだけれど ちょっと、村の…

康太の深淵

「本当言うとね たぶん、ママは私のことなんかなんとも思ってないの 責任感とか人間としてこうせねばって思ってるから 私を引き取りたいのよ」 「それって、間違ってないと思うけどな」 「でも、そこに、私を好きだって気持ちとか 愛してるって気持ちとかな…

発達障害の母

三ちゃんの母親である千絵さんは それから間もなく亡くなった なんでもベランダから飛び降りたらしい それは自殺とかではなく、ベランダの柵を 風呂と間違えたって話だ 認知症の人間をベランダなどに出すのだろうか? ふっとそんなことを思ったが 千絵さんが…

康太の深淵

「それよりも、優実さんは平気なの? お父さんと暮らすことになると あの、お父さんの女の人とも暮らさなきゃならないよ」 優実はにっこり笑って 「だって、きっとすぐ出ていくだろうし でも、きっと、またすぐに新しい女をこさえるだろうけど お母さんとは…

発達障害の母

「そうね、わかるわ」 そう、口では言いながらも 私は『だから、40年前から何にも変わっていない 三ちゃんは死に損だし、犯罪を起こさないようにって! 違うじゃない!犯罪を隠して、みんなでなぁなぁにしてるから 今でも似たようなことばっかりだし 志ある…

康太の深淵

「え?それって、弁護士さん 私に話を合わせようとして作ってない?」 康太は笑い出した それなら、どんなにいいだろう 「君のお父さんよりも家にいなかったよ 僕のお母さんはね・・・・・ 好きな男といることだけが 人生の楽しみのような人だった」 子供に…

発達障害の母

途端に二人が遠い人のように見えた ここでは、よっぽどわかりやすい犯罪以外は だれも、そこを深く調べようとはしない その私の空気に気が付いたのか ネコが少し低い声で 「あ~ちゃん、わかるよ あ~ちゃんは16の時にこの村を出て行って正しいものの方向に…

康太の深淵

「その話、お母さんにした?」 「したわ。 私のやりたいことには何も反対しないって! 意味わかってないのよ まるでマニュアル!マクドナルドで笑って接客するみたいに 娘には完璧な答えはこれって決めてるみたいな感じ 私はマニュアルで育てられるのはごめ…

発達障害の母

「自分がどんなに頭がいいか そして、どんな風にお金を貯めたかを自慢したくて仕方がない人だった だから、爺さんを殺して、ついでに三ちゃんも殺して 火災保険も手に入れて、一石三鳥だったって自慢したかったんだけど さすがにそんなことは言えないって頭…

康太の深淵

「夢なんかないの! だから、パパと暮らしたいのよ ママと一緒にいれば私のこれからは 今の私にだって言えるわ 有名私立名門女子高、勉強はしなくても大学までは行ける 就職はママのほうのおじいちゃんの知り合いが 大手の企業のお偉いさんばかりだから 私は…

発達障害の母

「家まで送って行くと 三ちゃんはあの性分だから 俺たちに水でもくれようとして 寄って行けって腕を離さないんだ 水って言ったって砂糖が入った麦茶だったけど 三ちゃんはそれを水って言ってたな」 友くんが懐かしそうにしゃべる 「ああ、あれはあそこのおば…

康太の深淵

その目はまっすぐに康太を見つめてきて 本当に母親にそっくりなのだ 父親は目も合わせたくなさそうに話す 「いや、お母さんは君と住みたいけれど 君が嫌なら仕方がないと考えを変え始めているよ ただ、お父さんに君のすべてを託すとなると 金銭的に無理だろ…

発達障害の母

「もう、ボケているからって、本当のことを 言うとは限らないでしょう?」 私は二人がどんな風に考えているかわからないので 何となく言ってみる すると、二人とも驚いたように私を見て 友くんのほうが 「ああ、ネコ、あ~ちゃんは知らないはずだよ あ~ちゃ…

康太の深淵

制服は都内でも有名中学校の清楚なもの 真っ黒な髪の毛は肩につかないかつくくらいで 真っすぐに切りそろえられて 顔は母親そっくりで美しい 椅子に座った様子も、すぐにだらしなく座る父親とは 対照的できちっとせず字を伸ばして座り 最近の女子学生では珍…

発達障害の母

三ちゃんのことは同級生たちはどう思っているんだろう? それが知りたくてコーヒーを飲みに行く いい具合にネコと友くんがいた 「おお、あ~ちゃん、久しぶり だいぶ、家のなかで暮らすのに慣れてきたんだな」 「母ちゃんに慣れてきたか~、ぶっとんでるもん…

康太の深淵

小太りで調子のいい話し方 おまけに少し禿げ上がっている 女好きは隠そうとしない 事務所に入ってきたとたん、すぐに女性事務員に 楽しげに声をかける 「お姉さん、色白いなぁ 口紅の色が似合ってるよ!」 いや、お姉さんではない 事務の角野さんは60くら…

発達障害の母

私たちの中に刷り込まれている親子関係 田舎だとやはり昔ながらの感じで 親のおかげで・・・・ そんなフレーズが当たり前のように使われる 「千絵さんもボケてはじめて本当のことが 言えるようになって楽になったんじゃない だって、あのまま育ててたって独…

康太の深淵

誰が考えても母親のほうに行くべきだ 事務所で今、康太の補佐をしてくれている 「康太さん、あれって何なんですかね あそこの奥さん、なんか、完璧な奥さんじゃないですか 娘さんが嫌がるわけがわからない」 確かに奥さんは嫌な感じの人じゃない 資産家の娘…