康太の深淵

誰が考えても母親のほうに行くべきだ
事務所で今、康太の補佐をしてくれている

「康太さん、あれって何なんですかね
あそこの奥さん、なんか、完璧な奥さんじゃないですか
娘さんが嫌がるわけがわからない」

確かに奥さんは嫌な感じの人じゃない
資産家の娘と言っても、ごく普通の服装
おっとりとした優しい口ぶり
調べれば調べるほど、完璧な妻だ
子供の教育には熱心だが
押し付けて勉強させるわけではない
優未ちゃんは都内でものびのびで有名な名門の女学校で
小学校から通っているから
お受験は大変だっただろうが
奥さんも出身でもあるから慣れてもいたのだろう

朝からちゃんとカツオ出だしを取った味噌汁
自分でつけたお漬物
だし巻きにシャケ
こんな完璧な朝食が出てくる

昼間に料理教室とお花に通っているが
そこで男の匂いなんか絶対にないし

夫が仕事をせずに浮気ばかりしていても
文句の一つも言わない

それが離婚することになったのは
夫の女が乗り込んできて

「あなたの旦那を私に頂戴!」

そう言われて、そのほうが夫がいいのならば仕方がない
となったのだ
ただ、優未ちゃんとは絶対別れたくないのだ
ごく普通の立派な母親だ