康太の深淵

康太は自分の意見をこんな少女に
言ってもいいのだろうかと躊躇したが
優未が面白がって父のほうについていくと
決めたわけではないことを思う

まったく非のない母親に育てられながら
その母親に愛情を育てられなかった娘
もしかしたら父のほうに行くのも嫌なのかもしれない
しかし、どっちかにつかなければならない年でもある
中学時代の自分も自分の生まれには悩んだものだった
都内で一番難しい私立中学に入学できたのも
そのあと、金銭的に困ることなく学生生活を送れたのも
姉のおかげだとはわかっていながらも
中卒で未成年の頃から母にやらされたとはいえ
風俗の仕事をしていた姉
あの頃は心から尊敬はできなかった
でも、愛は姉から教わったのだ

「うん。今自分が幸せで親に感謝したいと
自分から思うのが理想的だし、それが理屈ってものだろう
でも、まだ、たぶんだけど、親から言われての
親への感謝だろ?
親が自分に感謝しろなんて言うのはロクなもんじゃないと思うよ」