誘惑の花

京子とスピカの生活は楽しくて面白いものだった

スピカは大人しい子供だった

それは、本来、静かな大人しい子と言うよりも

りさ子が言っていたような父親の暴力が怖くてかもしれないし

りさ子も言うことを聞かなければ、

すぐに手を出していたのかもしれない

 

それが、京子と生活をするうちに

間違って水をこぼしても

叱られることはなく

優しく笑いながら、丁寧に拭くことを教えてもらう

そんなことが色々と続く

スピカはここにきて本当に幸せそうだった

京子の側にいると、いいことばかりがある

だからいつも一緒にいたい

そう思うのだろう

京子もスピカは何でも素直に聞き

楽しそうにしているのを幸せに思った

そして、スピカが俊哉の孫であることも

愛おしいと思う要因だった

 

ミキの遺産

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章子はそのまま家を飛び出した
そして、迷わず、速水の家に行った
話を聞いて速水は

「へ~小百合さんが探偵まで使って調べたの?
それはまた、進歩じゃない
それに、今、調べるなんて遅すぎね~」

そう言って笑った
章子のためにたくさんたこ焼きを焼きながら

「ラインして、たこ焼きがたくさん焼けたから
遊びに来ませんかって送りましょうか?」

章子はそろそろ、落ち着いてきて
一緒にたこ焼きを焼きながら

「うん。来ないと思うけれどね!
ママが子供だってことわかってるんだけど
どうしても、今回は我慢できなくて
それに、探偵社まで使って調べること?
それやるなら、結婚する前でしょう」

「小百合さんの母親、あなたのおばあちゃまは
調べたかったみたいだけど
おじいちゃまが止めたんですって
ほら、小百合さんの実家ってそういう
格式高い家柄でしょう?
いい悪いじゃなくって、結婚相手をしっかり調べるのは
当たり前のことなのよ
でも、小百合さん、康太さんのことものすごく愛していたから
そんなことする必要ないって
おじいちゃまが言ったのよ」

章子はそんなに父が好きだった母は信じられなかった

誘惑の花

コーヒーを飲みえると

また同じように手を合わせて

 

「ごちそう様!」

 

そう言ってシンクに持って行った

すると、後ろで

 

「ごちそうさま」

 

小さな可愛い声が聞こえ

皿とスプーンを持ってきた

京子は嬉しくなって

 

「偉いね~、ちゃんと全部食べたし

ごちそう様も言えて!

スピカちゃんは本当に、お利口でいい子だね」

 

そう言うと、スピカは嬉しそうに笑った

その顔は少し美奈子に似てい可愛かった

それから、私は孫出来たような喜びで

スピカと暮らし始めた

2週間ほどたっても、りさ子から連絡はなく

ラインで連絡しても既読にすらならなかった

 

「ママ、どうしたんですかね~」

 

すると、それまであまり話すことがなく

少し知能の遅れがあるのかと思っていたスピカが

 

「ママ、好きな人が出来たからうちとは一緒にいられないって

言ってた、だから、うちはここに来て

ここの子供になるように言われたの

最初はママは嫌い!って思ってたけど

ここは好きだから、それでもいいかな」

 

私は自分のことを『うち』と言うのが嫌なので

 

「『わたし!』そうだったのね」

 

驚きながらも、そう言うことなんじゃないかとは思っていた

でも、俊哉と不倫していた自分を顧みて

まぁ、それも仕方がない

そう思って、一生懸命喋ってくれたスピカに

 

「たくさんちゃんと喋れて、えらいね~

よくわかったよ!」

 

そう褒めると、スピカはにっこりと笑った

ミキの遺産

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章子は今まで母の怒り方は
いつだって上っ面だと思っていた
祖母の踏襲、見栄、母本人のため
そんな怒り方だったから
少しも怖くなかった
でも、今は本気だとわかる

本気だけれど、それって間違いじゃん
父の実家の人たちの職業をあげつらい
ショックを受けるなんて
そんなことでしか本気になれない母を今は本気で嫌いになりそうになる

今から先、発達が遅れていても、その仕事に対する能力で
成果を表し、章子と結婚しようとしている雅紀に対しても
絶対に色眼鏡で見るに決まっている
章子は母に対していつも小ばかにしていたのだが
今は章子こそ本気で怒る

「ママって、人間として、本当にダメな人ね
人は一人ひとり尊厳を持って生まれてくるのよ
そこに上下はないってわからないの」

小百合のほうも頭に血が上った

「何を偉そうに、誰のおかげで
ここまで大きくなったと思ってるの
あなたには、まだ、世の中のことなど
何もわからないのよ」

「それはママのほうよ!いい年をして世の中の真実を
何もわかっていない!」

誘惑の花

小さいティスプーンをつけると

すぐに食べはじめようとした

私は自分の前のコーヒーに

 

「いただきます!」

 

そう言って、少し大げさに手を合わせて

頭を下げた

スピカはキョトンとしてそれを見た

私はにっこりした

彼女は少し笑って

そして、スプーンを取って、もぐもぐと食べ始めたでも、同じようにはしなかった

 

なんて不細工な子供だろう

私はそう思って眺めた

りさ子には少しも似ていない

俊哉の面影もない

もちろん、美奈子の愛らしさもない

あんなに美形がそろっているのにりさ子の夫の遺伝子が

よほど強かったのだろう

そんなことを思いながらも、小さな手、そしてモグモグと

一心不乱に食べる様子は3歳児くらいで

とても可愛かった

ミキの遺産

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小百合は怒りで震えていた
いったい、自分が今までやってきたことは何だったんだろう
章子に関しては口には出さないまでも
失望させられることが多かった
だいたい、自分はお嬢様育ちで勉強はしなくてもよい
そんなスタンスで育てられたが
今、章子が通っている学校では常に10番以内だった
小百合の実家は代々、医者が多く出ている
もともと、頭のいい家柄なのだ
これからは女の子もバリバリ働く時代だ
小百合は頭のいいエリートの女の子を育てたいと思っていた

夫は康太だ、東大卒で弁護士
章子が勉強の出来が良くないのは
親のせいではないと決めつけていた
本人の真面目な努力がないからだ

勉強ができないことを叱るのは理想的な母のやることではない
そう思って、勉強が出来なくとも仕方がないと
あきらめて育ててきた
それならば、育ちのよいお嬢様に育てねばと頑張ったのだ
その結果がこれだ

誘惑の花

冷蔵庫からオレンジジュースをコップに入れて持ってきた

 

「オレンジジュース好き?どうぞ!」

 

そう言って渡すと、好きなのだろう

嬉しそうにコップを受け取って

ごくごくと飲んだ

この様子だとお腹も減っているだろう

そう考えると

 

「今から、お料理作るけれど

台所に来て、作るところ見て見ない?」

 

いったい何歳ぐらいだろう?

3歳になったかならないかぐらいだろうか?

自分の子供が幼稚園の年少さんだった頃を思いだした

 

スピカは何が何だからわからないなりにも

ジュースで機嫌がよくなったのだろう

小さくうなずいた

台所に連れてきて、椅子に座らせた

まだ、目を離していい年ごろには思えなかったので

側にいてほしかった

 

さっさと、小さなオムライスを作った

オムライスにケチャップで小さな顔を書いて

スピカの前に置いた