風邪をこじらせて

彼が懐かしそうに近づいてきた

 

「久しぶりだね

皆が誰だったかって騒いでいるから

君のこと話したら

ああ、あの事件のって思い出したよ

後で、ちょっと、二人で飲まない?

ずっと、話したいことがあったんだ」

 

私は断る理由もなく

その後、彼と小さなバーに入った

 

「ずっと、、あの日の次の日から

君ともう一度二人きりになりたいって思ってたよ

でも、君は僕には見向きもしなかった

だから、あの後、だいぶ荒れたんだよ」

 

私は今ならそうだったんではないかと思えるが

当時はそんなことを彼が思っているとは

考えてもみなかった

 

「あの時を、俺らを閉じ込めたのは安住だったんだ

まさか、俺らがあんなことになるとは思わなかったらしいけどね

今でも、あんなことがあったとは知らないけれど

君みたいな暗い子と閉じ込めれば

本当に困ったことになるだろうって

中学生らしいいたずらだったんだよ」

 

「そう」

 

ああ、それも悪くはなかった

あの日は娘の幸せな姿を見てから

私の最上の日になっていた

 

「僕は30代になったころふと思ったんだけど

あの中学三年の入試の大変な頃

君は一か月ほど風邪をこじらせて休んでいたよね」

 

私も久しぶりにあの頃のことを思い出した

そう、私は2月に私立を受験して

そのまま東京に来て3月に子供を産んだのだ