魔女

一週間くらいすると、部屋が片付いたから

遊びに来いと言う

私は興味津々でくうちゃんと遊びに行った

驚いたのは瑞樹ちゃんのパパもいたことだ

いや、多分、パパではない

瑞樹ちゃんがパパと呼んでいるのだが

若い!私よりも下かもしれないと思った

 

「いらっしゃい!

ねぇ、見て!おかげですっかり片付いたのよ

あ、これは、私の旦那!」

 

そう言ってゲームをしている若い男を紹介した

その旦那って男は私を見ると

 

「お母さんっていうから、ばばぁかと思ったけど

若いなぁ~綺麗だし!」

 

すると、正野さんは気分を害した様に

 

「ちょっと、パチンコでもしてくれば!」

 

そう言って2,3千円渡して追い出した

 

瑞樹ちゃんが小さな声で

 

「パパ、行ってらっしゃい!」

 

そう言うと、その若い男は

 

「バカ!パパじゃねえわ!」

 

すると、くうちゃんがすかさず

 

「パパじゃないの?パパって怖いから

パパじゃないよね!かっこいいし」

 

くうちゃんにとってパパとは暴力をふるう

怖い人なのだ

くうちゃんはジャニーズが好きで

テレビの番組を見るときジャニーズが出ると大喜びだ

私にはジャニーズの誰が誰だかわかんない

 

正野さんは私を見ると

 

「へぇ~あんたも苦労してるんだね」

 

姉のこと

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爺さんの実家は都内で代々医者の家だ
何処でどうして、こんなスケベじじいになったんだろう
娘があんな男好きなのを何で許せるんだろう
康太は小学校3年くらいにそんなことを考えていた
勉強は面白い、学校で悪ガキが

「お前の母ちゃん、また、男と逃げたんだろう?」

そんなことを言って、康太をいじめようとしても
康太は勉強ができることを心の支えに
相手には絶対にしなかった
頭が悪いやつの言うことをいちいち気になんかしない!
そう決めていた
でも、そう決めることで、家族のバカさも身に染みた
爺さん、母親、そして、おとなしいだけの父親
みんなバカで頭が悪い!

小学4年くらいになると
学校の勉強ができることで、プライドを保っていたのに
そんなことには目もくれない子たちが何人か出てきた
康太に憎まれ口を聞いていた一人が
ニヤニヤ笑いながら

「お前、つるかめ算とかわかるか?」

そう言って、塾のテキストを見せてきた
教科書さえ真剣にやっておけばいいと思っていた
康太には全くちんぷんかんぷんだった
中学受験をする連中がクラスに4,5人いたが
そいつもその一人だった
そいつは近所のアパートや貸家をたくさん持ってる家の子だった

悔しくて康太はすぐに塾に行ってみた

魔女

ちゃんとご飯を食べさせているのだろうか?

私の中に、チラッとそんな思いは浮かんだが

学生であった私は母親というものは

すべての母親が子供のことを想っている

そう信じていたし、そうじゃない例などは

今考えると、あまりニュースなどで大々的に

取り上げなかった気がする

いや、私が頭からそう信じていただけで

そういうニュースはあったのかもしれないが

世の中全体が母親はそういうものだと

子供たちに刷り込もうと必死だった気がする

私は子供のころ、好き嫌いがひどくて

もちろん、裕福な家でもなかったから

一番好きなものが白いご飯に振りかけご飯だった

きっと、瑞樹ちゃん一緒なのだと思った

姉のこと

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姉はそれでいいと思っていた
でも、康太は違う
この家に生まれたときには、その姉はいなかった
康太は小さな頃から、誰にもなつかない子供だった
いつも家の隅で大人しく絵本を見ているような子供でした

父親が無口な人だったから
似たんだろうってことで、誰も康太にかまうようなことはなかった
康太はいつも一人で、本を読んだりテレビを見たりするうちに
自分の家はおかしい、普通じゃないと思った
そして、母親がお金を持ってどこかに何ヶ月も行ってしまうと
じいさんは慌てることもなく

「またかいな~あと一週間もしたら
父ちゃんが給料もって帰ってくるから
それまではなんとか我慢しような」

そう言って、慌てて父に連絡を取ることもなかった
まあ、自分の娘が男を作って出て行ったのだ
そんなことを話すわけにも行かなかったのだろう

しかし、康太はうんざりだった
娘に何も言わないじいさんもじいさんだし
母親の男遊びを何もかも知っていて、知らんふりをして
黙ってお金を稼いでくる父も大嫌いだ

ただ、自分が小学校でいつも勉強が一番なのは
じいさんのおかげなのはよくわかっていた


魔女

瑞希ちゃんはそのご飯を見ただけで

 

「あ、白いご飯!」

 

それは、ここに来て始めての

感情のこもった瑞希ちゃんの声だった

 

「ふりかけかけて食べてね」

 

そう言うと

 

「ふりかけ?」

 

くうちゃんが

 

「そう、これかけて食べると、すっごく美味しいよ」

 

そう、教えてあげると

嬉しそうに飛びついた

 

「美味しい!!!!」

 

あまりしゃべることはないし

食うちゃんと遊んでる所をみていると

ほんとに無表情でしゃべらないから

面白くないのかと心配になったくらいだ

でも、くうちゃんが言うがままにそばにいるから

側にいたいのだろうとは思う

それが、ふりかけご飯でこの喜びようだ

姉のこと

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みぃが幸せになったことを誰もが心から喜んだが
本当に、一番喜んだのは康太だった

ほんの小さなころ
ミキから見た家族は、ただただ、仕方がない
そんなあきらめの対象だった
生まれた家がここだから
産んだ母親があれだから
学校は中学までしかいけないことは
小学校のころから薄々わかっていた
あの母親、おとなしいだけの父
どう考えても学校にやってもらっているだけ
ありがたいと思うべき家だった

母の男狂いは小さいころから見ていたから
それが普通で、女はそんな風に生きていくのだろう
学校でどんなに勉強ができたって
飯のタネにはならない
それが母の口癖だったから
自分も飯のタネになるようなことを
中学を出たらやるんだろうと漠然と思っていた

魔女

次の日から毎日のように瑞樹ちゃんは遊びに来た

くうちゃんは大喜びだ

バイトであるし食費も貰っている

私はおやつを上げたり、食事をとらせたりしながら

お昼になっても迎えに来ない正野さんにあきれたが

くうちゃんに食べさせて、瑞樹ちゃんに食べさせないわけにはいかない

お昼になってご飯に帰るように言ってみる

 

「瑞樹ちゃん、お昼ご飯の時間だから

一度、お部屋に帰ろうか?」

 

瑞樹ちゃんはキョトンとしたように

 

「お昼ご飯?」

 

そう言って、私に言われるままに部屋を出て行った

くうちゃんと私でご飯を食べていると

瑞樹ちゃんが戻ってきた

 

「お部屋に入れないのピンポン鳴らしても、ドアは開かないから

ママ、いないんだと思う」

 

私は仕方なく、ご飯とふりかけだけのお昼ご飯を

瑞樹ちゃんにも用意した

ご飯とふりかけというのはいつもの私のお昼ご飯だ

食費はもらっているが、一か月、五千円だったから

このくらいでいいだろう

夜はカレーにしたり、オムライス、と私の少ないレパートリーで

頑張ってみたりしていた

それでも、ご飯に振りかけだけっていうのは

少し気が引けるものだった

ちょっと、質素すぎるかしら