悪魔が来りて・・・

この、寮に入ってからは

誰もが早苗さんを母親だと思っていたし

父親は来なくても珍しいことではなく

医者や弁護士、社長などの父親が多く

みな忙しいのだ

私の父もそんなことで来ないのだろうと思われていた

 

私が初めて、自分の父と母について知ったのは

大学に入ってからで、祖父が死んだ時だった

祖父が死んだときに、親族の中に見慣れない人間がいたのだ

私は誰であろうと、別に興味はなかった

祖父は手広く商売をしていたし、地元でも名士であったから

当然、多くの人間が来てくれていた

それでも、一番の身内である祖母の隣に

その二人が座っていて、回りがざわつくので

私はそっと早苗さんに聞いた

普通ならば早苗さんは機転を利かせたり

何とか言いつくろったのであろうが

その時は大好きな祖父が逝ったショックもあったのだろう

 

「あの人の最後の言葉は

奥様への言葉でも、私への言葉でもなかったでしょう?」

 

確かに、祖父の最後の言葉は

 

『静をよろしく、静が幸せになるように』

 

そう、回りに語り掛けたのだ

私は祖父に可愛がられていたから

あまり不思議に思わなかった

でも、早苗さんは、少し怒ったように

 

「あの二人が、静ちゃんのお父さんとお母さんよ」

 

私はビックリした