逃亡

私たちは火を入れたとはいえ

とても飲む気にはなれなかった

楽しく話をして

ゆかりさんが昔と変わりなく話すのを聞きながら

二人ともお茶は飲まずに帰って行った

私も彼女も、お茶の話はしなかった

そのことは部落の嫁に行ったこととは関係ない

でも、なんとなく二人とも

部落に嫁に入るとはそう言うことだと思った

今はそれは部落とか何とかよりも

いや、部落だから貧しかったのだ

ゆかりさんは恋をしてそこに飛び込み

あの後、三人の子供を産んで立派に育てた

三人のうち一人は上級公務員になり

今ではあの村を部落と、こっそり呼ぶ人すらいない

この草加シズカにはそんなことは関係ないだろう

ただ、村の女同士小夜子さんにあこがれたり

今もこうして訳の分からないことで私をストーキングしている

それは草加シズカの問題だ

ただ、私は昔のそんなゆかりさんのことを思い出した

ショウはまっすぐにその本質を突いた

 

「うまいでしょう?

僕が生まれた環境では、こんなのは

いくら腕が良くても作れなかった

環境が貧しくて、下世話で

その中で食べ物は腹さえ一杯になればよかった

ばあちゃんと暮らせてなきゃ、俺だって

こんなものはお金がかかって作れないよ

あ、ばあちゃん、これ、デパ地で買ったやつだよ

やっぱり、その辺のスーパーとは違うよね」

 

シズカさんはわ~っと泣き出した