逃亡
「ああ、私も名前は聞いてなかったね
巴さんのお母さん、あんた、なんて言うんだい?」
彼女はタラの粕漬をうまく焼いた奴を
ため息をつきながら食べる
「ただ者じゃない高校生だね
ああ、私の名前は草加シズカ」
「ああ、草加って言えば隣村のその先あたりに
たくさんある苗字だったね
そうか、小夜子さんはあのあたりの出だったね」
私はその辺りが、部落と呼ばれているのを知っていた
私たちがそんなことを言っていたのも
もう40年くらい前のことだったが
私の旦那の友人がそこの出で
えらい、顔がよくて優しかった
それで、うちの村でも優しくて美人で上品な
ゆかりさんがその人に惚れられ
本人も惚れて結婚の段取りとなった
そりゃあ、ゆかりさんの親は大反対で縁を切るとまで言っていた