逃亡
村では誰も相手にしていなかったシカオは
私だけには気持ちがわかるだろうと思ったのかもしれない
「ばあちゃん、あんた、これでいいのか?」
シカオは村の若い者のなかではめずらしく
180近い身長があって、少し怖い
「いいとか、悪いとかじゃないだろう?
もう、あの二人は帰って来ないよ」
「俺、探偵やとっても見つけ出したい
ばあちゃんもそうなら、一緒に金出してくれよ」
背が高くてさわやかな顔、母親思いで
セックスさえ絡まなければ優しい子だ
「連れ帰ったって、また、同じことだよ
うちのじいちゃん、知ってるだろう?
女にめっぽう優しくて、可愛そうな女を見て見ぬ振りが
できないんだよ
あんたんとこの奥さん、金は持って出たのかい?」
「何にも!何ももって出なかった!
服も何もかもそのまま!化粧品すら置いて行った」
「お母さんはなんて言ってるの?
お嫁さんはあんたのお母さんの遠縁だったんだろう?」
「恩知らずって!言ってる」
私はどこまで言ったら、シカオが怒るんだろうと
考えたが、このままではシカオも
どうしようもない八方ふさがりになって
怪しい犯罪者になるかもしれない
「シカオ、都会で仕事してた時は
どうしてたんだい?
恋人ぐらいはいただろう?
あんたは村じゃ珍しくイケメンだからね」