逃亡
子供の頃はこれで済んだが
小学校高学年になると
よその家の風呂場を覗き見る
若い女の子たちは、こんな田舎では
そうやって見てくれる男なんかいないから
きゃあきゃあ文句は言っても
本当は喜んでいる
懲らしめるべきおっさん達も
男の子だから仕方がないと笑ってすます
それで、心配したシカオの母親は
シカオが中学を出るとすぐに大阪の工場に
働きに行かせた
それでも、長男でもあるので二十歳の時に呼び戻したのだ
未だに田舎では長男が大事だ
シカオの家は下に妹がいたが、知的障碍者でもあったから
よけい、シカオには帰って来てほしかったのだろう
帰って来たシカオは何となく普通ではなかった
この村では一度、都会に出て帰って来た人間も
少なくはない
やたら、都会ぶったり、ネットで注文をして無駄な買い物をしたり
それでも、自然とこの村の人間らしくなっていくのだ