魔女
板橋の古い小さな一軒家
いかにも、あの時の代表が住んでいそうな家だ
持ってきた手土産の羊羹を見直して
少し奮発しすぎたかなと思った
出てきたのは80がらみの小さなおばあちゃん
あの頃の頼れるおばちゃんの面影はなかった
でも、上品で厳しそうな雰囲気は変わりはなかった
「まぁ、あの素朴な学生さんだった方よね
すっかり奥様ね~
あの頃でも、おさげの大学生ってめずらしかったから
よく覚えているわよ
子供を預けるんだから、誰でもいいってわけじゃなかったしね
人手不足で大変なときだったし
あんなバイト代でよく引き受けてくれたものだわ」
私にとっては、けっこうなバイト代だったと思っていたのだが
相場はもっと、高かったらしい
羊羹は凄く喜ばれて
「こんな結構なものをいただけるなんて
本当にありがとう
あなたも幸せにやってるのね」
幸せかどうかは自分ではわからないが
長いこと不幸な女たちを見てきている代表には
私はとても幸せそうに見えている
確かにそうかもしれない
瑞樹ちゃんの話を聞いた私は
自分の家族に対する悩みなど、贅沢なことかもしれないと
思い始めていたから