速水が立ち止まると
ミキが直ぐに立って行った

「恥ずかしがらなくてもいいの
ママもそうだから」

それは娘が可愛いあまりに
すっと出た言葉で
速水が話し始める間も無く

「ママは中学をでてすぐに
そう言うお店で働いていたのよ」

速水は驚いてミキを見る
沢村は立ち上がると

「そんなことは悩むほどのことではないよ
君がそう言う風に行きて行きたいのならば
それだっていいんだ」

速水は自分の体がどうしても
男なしではダメな
男に体を触れられると
抵抗できない
そんな自分がどうにかなる程嫌だった

発達障害の母

「そうなの。全然知らなかったわ

雅ちゃんは今、どうしてるの?」


「離婚されそうになって

泣きに来てるのよ

ね、マスター」


すると、マスターはとりなすように


「いや、雅子さんところは

旦那が悪いんだから

別れた方がいいよ」


私は何のことかもわからないので

黙って聞いていると


「マスター、酎ハイちょうだい

ジョッキでね」


そう言っていっきにチュウハイを煽ると

私に喋り始めた

速水が座ると
ミキは聞くに耐えられない気がして
違う部屋に行こうとした
沢村は

「ダメだ!君もここにいるんだ
こういうことは
悪いことでもなんでもない
そう、親が思わなくてどうする!」

速水の方が驚いた

「パパ、何なの?」

三人で座ると
速水はまったく無邪気に聞いた

「今日、クラスの男の子のお母さんから
電話がかかったんだ
君がその子を休み時間に誘って
性的なことをしてるって」

速水はみるみるうちに真っ青になった
そして、居間から飛び出そうとした

「ダメだ!
恥ずかしいことなんかじゃないし
悪いことでもないから
ここで、少し話そう」

発達障害の母

小学校の頃が鮮やかに蘇った
私は今と同じように彼女をバカにしていた
頭が悪かったから
本が全く読めない
彼女に教師が国語の教科書を読ませても
つっかえて読めないから
すぐに朗読のうまかった私が代わりに
読まされたものだった

もちろん、バカにしているなんて
おくびにも出さなかったはずだ
彼女は私の様子を上から下までじっと見つめた
遠慮なんか全くない目だった
少し、酔っているのかもしれない

「ご立派なことね
何しに帰って来ているの?
たいそうご立派になったって
あ〜ちゃんのおばちゃんが
触れ回ってたわ
うるさいほどね」

母のことを言われると
言いたいことも言えなくなる
小学校の頃は
母のことは全く気にしていなかったから
そんなことは考えもしなかった



誰が見たって
真面目な普通の高校生にしか見えない
ミキはさっきの電話は何かの
間違いではないかと思う
だいたい、男の子の方が
悪いに決まっている

速水に関しては親バカになってしまう
sexに関してはプロ中のプロだし
そういう女がいることは
一番、ミキが知っているはずなのに

着替えに部屋に行こうとする速水を
止めたのは夫の方だった
沢村は娘のこういうことを
何故、そんなふうに受け入れられるんだろう
ミキは不思議なものを見るように
夫を見た

速水は嬉しそうにソファに座った
父親がこういうふうに速水を呼び止める時には
速水にとっておきのプレゼントがある時だからだ
それほど、沢村は平然と普通だった

発達障害の母

それが今日は珍しく来たばかりらしく

私が入っていくと、こっちを向いた

白髪交じりの汚い髪の毛を黒いゴムで縛り

今まで泣いていたかのように顔は濡れていて

それもしみだらけのすっぴん

腹は出ている小太りで、ジャージの上下を着ている

足は一時期はやったクロックスまがいの茶色のスリッパ

靴下は毛玉だらけ

親指のほうは見えないが絶対に破れているに決まっている

私を見ると

 

「あ~もしかして、あ~ちゃん?」

 

小学校の頃の私の呼び名で呼んだ

私も小学校の頃に戻った

 

雅ちゃんだよね!」

「それに、それが悪いことだと思うのはやめよう
そういう特性なんだよ
それは数学が得意だとか
国語が得意だとか
本を読むのが好きだとか
絵をかくのが好きだとか
それと同じだよ」

それは言われなくてもわかっている
だって、そういう母を持ち
妹を持っているのだから
でも、世の中ではそんなもの
世の中で殺人が好きという次くらいに嫌われるのだ

「そうね、そうだけど・・・・」

そんなことを話していると速水が帰ってきた
まったくいつも通り
そして、色白で清楚そうだ
今どきの女子高生のようにメイクをするわけではないし
見た目もスタイルがいいとか
かわいいとか美人だとかではない