掟
発達障害の母
そんな高尚な場所から
今の母のところに来たのだから
かなりのストレスで、一日に一時間くらいは
毎日、田舎にある喫茶店にコーヒーを行く習慣ができた
母はコーヒーの匂いも嫌いだから
一時間、コーヒーを飲みに出るのは
唯一の私が自由になる時間だった
東京のカフェでお茶をするのに慣れていた私にとって
田舎のその喫茶店は、昭和そのものだった
それでも、私がここにいる頃はなかったのだから
この小さな村もずいぶん変わったものだ
この辺りは近くに有名な観光地があることで
車で通る人たちがたまに、この田舎の喫茶店に寄って行く
発達障害の母
できるだけ母に寄り添い
一緒に静かに世を送る
そう思って帰ってきたのだ
主人の義母との最後の日々はそんな感じだった
義母の横で暮らしているだけで
それまでの人生のつらさや幸せだったことが
もう、遠い出来事として流れていて
そこから人生がなんであるかが言葉にせずとも
私に流れてきた
義母の台所は私のあこがれだった
それはお金がかかっているとかではなく
古くてよい台所の道具を大切に使っていて
そこから出来上がってくる食事に
心が躍るような気持ちにさせてくれる台所だった
家事の一つ一つが丁寧で家族のことを思っている
その短い日々は私も最後はこんな風に・・・・
そう、思わせてくれる最後だった
掟
発達障害の母
母は私に合わせて
いい人を演じるためにその犬に遠くから
かわいいわねぇなんて言って手を振る
犬は正直だし、嫌いな人はよくわかる
母のほうを見て、しっぽを振るのをやめて
う~と歯をむき出す
ああ、母の人付き合いはこんな感じだ
普通の人のように愛想よく人と付き合おうとするが
何を考えているかが透けて見えて
よけい嫌われたりする
その人との付き合い方を私にもするから
悲しくもなるし、いやにもなる