風邪をこじらせて

私はその子に惹かれるように、店に入った

多分、カウンターからその様子を見ていたのだろう

母親であるだろう、制服を着た30過ぎくらいの彼女が

 

「すみません!

恭太、今ぶつかったでしょう?

ちゃんと謝った?」

 

私はあわてて

 

「あ、坊やは謝ってくれたんですよ

私はカレーをいただこうと思って

前にここに来た時、本当に美味しくて

今日も用事できたんだけど、お昼はここにしようと思って

何も食べないで我慢してたの」

 

「わ、ありがとう、おばさん!

そう、僕ちゃんと謝ったよね!

うちのパパとママのカレーは最高にうまいけど

僕にはちょっと、辛いんだ」

 

恭太と呼ばれた子は屈託なく嬉しそうに私にしゃべってくる

 

「まあ、ありがとうございます」

彼女がそう言うと

話が聞こえていたのか、奥からマスターと思われる人が出て来て

 

「あ、ありがとうございます

坊主がぶつかったって、大丈夫ですか?」

 

背が低く、決してイケメンではないし

少し小太りでもある

でも、その誠実な目とカレーの味は絶品なのだ

そして、彼女は好もしそうに夫を見て

恭太を見た

なんて幸せそうな家族