魔女
「くうちゃんの母親はあのまま、帰ってこなかったのよ
あのおばあちゃんは病気で田舎の病院に入院してたらしいの
でも、入院費が払えないから
この施設を知った、くうちゃんの母親が
ここに行けば何とかなるからって
子供とおばあちゃんを引き連れてやってきたのよ」
「あ、でも、くうちゃんのお父さんはひどい人だったんでしょう?」
「そこが一番ひどい話で
あの、母親がくうちゃんやおばあちゃんにそう、言い含めていたのよ
私たちが困って、おばあちゃんの実家に連絡したら
すぐに、おばあちゃんの弟と旦那さんが飛んできたの
旦那さんは本当におとなしそうな人だし
その、旦那さんをかばったのが母親側の親族で
『あいつはどうしようもない男好きで
田舎でできてた農協の男と示し合わせて
東京で出会うようにしていたんだと思う』
って話でね、私たちも子供をお父さんのもとに返すのに
心配だったから、スタッフの一人に現地まで行ってもらって調べたのよ
まったく、くうちゃんのお母さんには振り回されたわ」
「そうだったんですか
大変だったんですね
でも、そんなことがあって、よく、私のバイト代まで
出してくださりましたね
あの頃、貧乏な学生だったわたしにとっては
本当にありがたいバイトでした」
そう、あの頃、夏休み明けの学期の
教科書代、冬のコートやパンツ
田舎から送ってくれるお金だけでは四苦八苦していた私には
とても助かった思い出がある