魔女

「くうちゃんとあのおばあちゃん

そして、小さい赤ちゃんがいたわね」

 

「よく、覚えているんですね

すごいです」

 

「あなたも年を取るとわかると思うけど

私みたいな年齢になると

昨日のことは忘れるけれど

数十年前のことを昨日のことのように

覚えていたりするのよ

特に、くうちゃんの家のことは

あれから、大変だったから」

 

私はあの夏のバイトとしてしか

くうちゃんにかかわっていない

預かるときも、そんなに詳しくは聞いていない

どこか田舎から、くうちゃんたちは

おばあちゃんとお母さんと、小さな赤ちゃんと

お父さんのDVから逃げてきた

そして、この施設に来ていたのだが

お母さんが一人勝手に飛び出してしまった

それは、その頃の担当者が『くうちゃんの母親は

東京で知り合った若い男と逃げたのよ』

そう聞いていた

おばあちゃんは赤ちゃんの面倒を見るので手いっぱいだから

くうちゃんを預かってほしい

そういう話だった