小百合の幸せ

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小百合のように、回りの空気なんか無視して
話したいことを話す
世の中を敵に回したって、怖い物なんか何もない
自分の思ったことをのびのび言って
相手の反応など考えない

綾子にしてみれば夢のようなことだ
だいたい、母は父親の家のお金のこと子供のこと
そして、奥さんのこと
すべてに敵対心を燃やしているけれど

その根底には最初から負けているじゃないかと言う
深いコンプレックスがある

綾子はそれがわかるから、成績も体育も音楽も
そして友人関係も

『ほら、お母さん!大丈夫!私はそっちの子なんかに負けないわ!』

そんな気持ちを言葉には出さないが前面に押し出して
生きてきた
そのためには常にアンテナを張って、間違いは言わない!
誰にだって尊敬されるように頑張る!

そのためには小百合はいつだって横に、見える範囲において
まるで本妻の子供だと思いながら生きてきた

誘惑の花

「だって、東京には知り合いはいないし

どこかで暇潰す、お金もないしな」

 

「仕事で来てるんだ」

 

「うん。お世話になってるおっさんが東京の知り合いに

頼まれて、それで来たんだ

給料いいし・・・」

 

そこで俊哉は言い渋った

多分、京子もいるしって言いたかったんだろう

前の女ったらしの俊哉ならば、絶対、さらっと言った

ああ、結婚したんだな

俊哉の給料は真面目に働けば、あっという間に100万溜まる

そう言ってたはずだ、それがお金がないとは?

ああ、美奈子が管理してるのか

美奈子って女は俊哉を普通の男にして、何が嬉しいんだろう

そんな憤りを感じるが

それは嫉妬なのだろう

自分が結婚しても、仕事で家を空ける俊哉にお金は渡さない

 

「じゃ、泊るところの手配はしてくれているんでしょう?

そろそろ、帰ったほうがいいよ

田舎と違って電車はたくさんあるけど、終電って

ちゃんとあるから電車なくなっちゃうよ」

小百合の幸せ

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お妾さんの子
幼稚園のころまで
父の地位のおかげで、大っぴらに
そんな風に言われたり、いじめられることはなかった
でも、綾子自身が何をしても
なんだか一人前じゃないような気がしてた

小学校に合格したときも
父の力のおかげだと母は言った
綾子はその時小さいながらも決心した
誰にも負けない!
学校での勉強も何もかも一番
友人関係でも完璧な人間になる
喋ることは一言も人間として間違ったことは言わない
どんな人間でも仲良くする

小学一年の時に『小公女』を読み
自分は完璧なセイラになろうと思った
そして、誰からも、教師からも尊敬されるような
学校生活を送ることになった
そんな気持ちで小百合とは接していたのだが

母と自分がなりたかったのは小百合だと思うようになった

誘惑の花

俊哉が悪いやつなのは、あの少ない時間では

全くわからなかった

彼はずっと優しかったし、一緒にしゃべっている間

別に意地悪そうなことだとか、暴力的なことだとかは

全く話さなかった

でも、田舎の同級生たちから聞いた話は凄すぎて

強盗、強姦、そしてゆすり!何でもするような話だった

いつだって、逃げるのがうまい!

証拠を残さないようにする

そんな話ばかりだった

愛している、会いたい!それとは別に俊哉を警戒したほうが

いい相手だと思い始めてもいるのだ

このマンションがほとんど京子の物とわかったら

彼はいったいどうするだろう

 

コーヒーを淹れて、

 

「夕食は?食べたの?」

 

そう聞いてみる

俊哉はコーヒーに砂糖とミルクをたくさん入れて飲みながら

 

「仕事終わって、すぐにここに来たんだけど留守だったから

駅の近くの牛丼屋で飯食った」

 

「え?ずっと、待ってたの?」

小百合の幸せ

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綾子は話を聞きながら
雅紀が、ある才能に恵まれているのだろうと理解する
今、ようく言われている発達障害だが
反対に違うベクトルが素晴らしい人間もたくさんいる
普通でいることが正義であるような社会のなかに
全く違う天才のような人間たちがいて
その人間たちからは学校と言う常識に合わない人間がいることを
今の世の中は少しづつ理解してきている

偉人や有名人に多いのも確かなのだ
その雅紀君とはそんな人間なのだろう

でも、高校生の章子がそんな彼を捕まえて
誰もが賛成しているなんて、素敵な話だ

綾子が長いこと小百合と友人でいるのは
そんなところだ
綾子が持っていないものをすべて持っている

綾子が小百合と同じ小学校に入って来たのは
愛人である母が、父の子供たちには絶対負けられない
お金だって平等に出してもらわなければ悔しい
そんな母のライバル心からだけの、学校選びだった

お金の苦労はなかったが、常に一人前ではないような気がしていた

誘惑の花

「ま、奥さんは、その頃、入院してたからよかったけど

奥さんの親二人とも、けっこううるさいからね」

 

「結婚したの?」

 

それは、わかっていたことだけど

ショックだった

結婚している男に手は出せない

 

「入院って?子供?」

 

「うん。女の子が出来てさ!かわいいんだ」

 

俊哉はいったい何をしに来たんだろう

近況報告にわざわざ、東京まで来たの?

 

「それはおめでとう」

 

そう言った時には、もう、部屋の前まで来ていた

でも、帰れとは言えなかった

 

部屋に入ると、驚いたように居間をぐるぐるして回る

 

「すげえな~ここ一か月いくら?」

 

「20万円」

 

「え?今、自分、何の仕事してるんだっけ?」

 

「出版関係だけど」

 

「ふ~ん、何か知らねえけど

すごいんだな」

 

このマンションは賃貸ではない

福岡の独身の伯母の物で

叔母が空けてるのももったいないから

月7万で貸してくれているのだ

叔母は90を少し出ていて、痴ほう症も出ているから

弟である父親が管理している

最初は毎月払っていたが、今ではぐずぐずになっていて

ほとんど自分の物のように暮らしている

説明はめんどくさいから、20万と言ったのだ

誘惑の花

少し笑いながらマンションのエントランスに入ろうとすると

後ろから

 

「京子?何にやついてるの?

今の彼氏?楽しそうにやってるじゃん」

 

振り向くと俊哉だった

全く変わっていない俊哉

田舎で会っていた通り

作業着にペンキで汚れた運動靴

彼は京子に続いて、マンションに入って来た

敏夫のような遠慮は全くなかった

この、ずうずうしいほどの女を分かっている態度が

京子の大好きな俊哉だった

それでも、嬉しそうな顔はしなかった

だまって、エレベーターのボタンを押すと

 

「あれ?会いたかったんじゃないの?

だから飛んできたのに!

手紙隠すの大変だったんだから

これから、手紙くれるときは男の名前にしてよ

そして、汚い字にして!

今回はたまたま、俺が郵便受けから出したから

良かったようなものだけど」