小百合の幸せ

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「それがね、みぃさんが会社を大きくしたのって
どうも、お義姉さんの子供の速水さんのおかげらしいのよ
速水さんも中卒なの!
何か怪しくない?」

綾子も不思議には思ったが

「ご主人の御家族って、学歴なんか関係ないほどの
有能な一族なんじゃないの?
だいたい、御主人が東大なんでしょう
皆、学歴を付けようと思ったらできるけど
もっと、才能豊かだから、
そんなのいらないって感じなんじゃないの」

「そうかもしれないけれど
なんだか怪しいのよ
今回の雅紀君のことだって、私にはちんぷんかんぷん」

誘惑の花

園田敏夫

何事もそつがなく、でも誠実で

一緒に働いていても、彼が自分に恋しているのはよくわかる

 

「京子!ちょうど、もらったチケットがあるから

コンサートに一緒に行かない?」

 

多分、京子の趣味を調べて、

必死にチケットを取ってくれただろうに

そんな風に声をかけてくれる

見え見えだけど、気分は悪くない

彼に対して恋心は持っていないが

一緒にいて楽しい相手だ

 

その夜も食事をし京子の部屋の下まで送ってくれた

そろそろ部屋に誘ってもいいかなと思っているが

敏夫のほうが、そんなことは全く考えていない

と言うように、さっさと帰ってしまうので

苦笑しながら見送る

 

「じゃ、京子!また、明日な!」

 

そんな風に爽やかな後ろ姿も悪くない

でも、ものすごくやせ我慢している空気も

まるわかりなんだけど・・・

小百合の幸せ

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「まあね~彼氏どころじゃないんじゃないかしらね
小百合も大変ね~
でも、回りはみんな、それで納得してるんでしょう?」

「そう、うちの母までもそう言うのよ
私が高校の時に章子みたいなことをしたら
気が狂うほど、怒ったと思うのに
孫には甘いのよね」

「あ、でも、その彼が働いているところって
旦那さんが顧問弁護士をしてるんでしょう?
じゃ、大丈夫じゃないの?」

綾子は自分の本当に意見は小百合には話さない
あたりさわりがないように、小百合の話を引き出すだけだ

「だって、主人の妹が興した会社よ
それは、あたりまえでしょう
主人の実家もなんか変でね~」

「あら、結婚するときにご主人のお姉さんの旦那さんは
東大の教授って言ってなかった?」

「そうなんだけどね~もう、亡くなったから話せるけれど
お義姉さん、中卒だったのよ
たぶん、妹のみぃさんも中卒
今は、イタリアに行ってるけどね」

他の友人や知り合いには絶対話さないことを
綾子には全部話す

誘惑の花

ゆすり、たかりもするような話も

何人かの知り合いからは聞いた

 

そんな人間だろうか?

一緒に過ごした時間は、短く

付き合ったと言っても二か月もないくらい

京子は彼の中に、京子と通じるような

何かを感じていて、それが数か月たった今でも

心にわいてくるのだ

東京に出て来て仕事は面白い

男たちは学歴も人柄もいい人間がたくさんいる

見た目だって悪くない

ただ、京子はいちいち、俊哉に知性があってスーツでも来せたら、もっと、素敵なんじゃないか

そんなたわいもないことを想像して

会いたいと思っている自分が悲しすぎる

 

それから半年、もう、そろそろ

他の男と付き合ってもいいかもしれない

幸い、付き合わないかと言ってくれる男だっている

 

東京育ちで、小学校から私立!

中高はほとんどが有名大学に行く一貫校

仕事はできるし、まず、一緒にいて楽しいし

っ常識的

田舎育ちの京子にとっては、何もかもがあか抜けていて

少し戸惑ってしまいそうになる

小百合の幸せ

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綾子は小百合との長い付き合いを思いながら
小百合の話を聞く
康太のこと、章子のこと、章子の恋人の話
今、小百合の周り、実家の母ですら
何でも、『良かった良かった!』で終わる
小百合もその言葉に合わせて
『本当にそう!』なんて言っているが
全く納得していない
それを綾子には心置きなくいえる

「絶対嫌なの
今からでも、そう、だって章子はまだ、高校生よ
何で、中卒の少し足りない男の子と
約束だからって結婚に向かって計画建てなきゃいけないの!
もっと、普通の人なら許せるけど
学歴が中卒って、せめて高卒でしょう?
みんな大賛成ってどういうこと?
私間違ってる?
証拠が可愛いから、こんなお付き合いには反対したいのに」

そこまで話して小百合は
自分ばかり話してはいけない、そんなマニュアルを急に思い出したように

「綾子のところの上のお姉ちゃんは?
結婚とかまだ言ってないの?」

綾子は小百合がそんなことに興味がないのはわかっている

誘惑の花

「あんなクズたちが、自立して暮らしたりすると思う?

あのあたりの人間はみんな実家暮らし

その美奈子って子もそうでしょう?」

 

京子はそんな事情に詳しくはなかったが

確かに佐由美なんかも彼氏とはホテル代がもったいないと

彼の実家に泊まりに行ったりしていた

京子からは信じられない世界だ

 

「間違いなく、中学の時の住所にいるわよ」

 

彼女の言うことにはいちいち、納得する

俊哉が世間的にはクズ中のクズなのもわかっている

それでも、住所を知れば

手紙を書こうと思ってしまうのだ

それも、ただ、『会いたい!』それを伝えたいだけだった

 

返事が来るとは思っていなかった

田舎の友人の言葉は事実としてわかっている

俊哉がお金の計算はできたとしても

九九が言えるかどうか?

漢字が書けて読めるのか?

 

 

小百合の幸せ

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好きではないが、娘や夫に友人はいないとは言えない
何かの折に友人はと聞かれれば
小学校からの友人として綾子の名前を出す

一年に一度くらいあったりするのだが
その時に小百合は綾子の夫の仕事や
子供の学校が気になって仕方がない

綾子は本人も夫も官僚
娘と息子がいるが、これがどちらもよくできて
姉のほうはハーバード、弟のほうは有名私大に通っている
それだけでも、うんざりするのだが
綾子はそんなことにはまったく頓着せずに
楽しく話をする
いや、話を聞いてくれると言ったほうがいいかもしれない

自分がうっかり、言ってはいけないこと
空気を乱すことなんかをだんだん、わかって来たのだが
それでも、うっかり言葉に出してしまう
だから、何かと人が集まって話すときには
あまりしゃべらないようにしていたのだ

それはそれで、ストレスになる
綾子と話すときにはそんなことを考える必要はない