逃亡
「でも、あの女、子供も産んだことないくせに
いつだって偉そうなんだけど!」
私はそんなチェリーを、本当に母親似で嫌な子だと
思いながら
「美佐子さんは子供を産んだことがあると思うよ
あんたの子育ての手伝いが、赤ん坊を知ってる人のものだよ
今、チェリーがやってない
赤ん坊のいる部屋の掃除、ミルクのセット
そして、シェリーの抱き方、間違いないと思うよ」
「え?そうなの?パパと一緒になるのに
子供は捨ててきたってこと?」
「こらこら、そうとも限らないよ
そう言うのが、本当に女子高生全般に言えるけど
悪い癖だね
少し世の中を知っていて、自分はバカなことはしない
と思ってるせいか、生意気で
深い心が全くないよ」
恋をしたとき
逃亡
チェリーはムッとしたように
「だから、私はバカなんだ!
そう言う理由だったのね」
「そうとも言えないけどね
でも、シェリーのこと、ちゃんと考えなきゃ
だいたい、もともと、仲のいい家庭でなかったにしても
あんたのせいでこういうことになったんじゃないかい?」
「ママよ!いつだって自分が大事なんだから
お兄ちゃんのことだって、自慢になるからでしょ
私だってバカ高校に行ったとたん、手のひら返しに
娘なんかいない!的な態度に変わったんだよ」
「そこまでわかっているんなら、わかるだろう?
シェリーをかわいいと思ってるのならば
遊んでやるんだよ
家事を手伝う時は、いつもおんぶしてやるんだよ
そして、色々話してあげるの!
今、掃除してるんだよ~とか
美味しいご飯作るの!とか
歌を歌ってあげたりね!」
「うん。わかった!」
チェリーは喋るのは、何もわからない赤ん坊に無駄だと言う
顔をしていたが、歌は得意なことだから
やってみようと思ったのだろう
恋をしたとき
逃亡
チェリーはうんざりしたように
私の部屋に来ると
「ねえ、あの女、何母親面してるんだろうね
バカみたい!」
私の横の部屋がチェリーと赤ん坊の部屋だから
ドアが開いていれば、筒抜けだ
もちろん、美佐子さんはそのことも計算済みなんだろう
「あんたのお兄ちゃんの智久が赤ん坊の時にね
あんたのママは一生懸命だったんだよ
お腹の中にいるときからクラッシックを聞いたり
生まれると、山ほど絵本を読んでやってたよ
それに、外国の絵本もあっちのおじいちゃんおばあちゃんから
たくさん送って来てね
英語でも読んであげてたよ」
「ふ~ん、私にもそうしたの?」
「しなかった!」
「え?」
美佐子さんは私がこんな話をするのも
計算していたのかもしれない
「智久はよくできたから
幼児教室に行っても幼稚園に行っても
鼻高々!
小学校のお受験の時に生まれた、チェリーにかまっている暇は
なかっただろうからね~
だから出来がこんなに違うんじゃないのかい?」
こんなこと言う気はなかったし
私自身はそうは思っていなかったが
チェリーみたいなタイプは徹底的に甘やかされている
少しはきついことでもいわないと
子供を産んだくせにロクな母親にならない気がした
逃亡
落ち着いてくると
チェリーは赤ん坊が泣かなければ
たいがい、スマホをいじっている
すると、それに気が付いた美佐子さんが
「スマホ、やめましょうか?
何か赤ちゃんのことで困ったことがあったら
わたしか、お義母さんに聞けばいいわ私たちがスマホで調べたことを話してあげるから」
私はチェリーが妙な出会い系に
アクセスしていたのを知っていたけど
このバカ娘!と思っていただけで
いったいこの後どうなるか、知らんふりして見てみよう
そう投げ出していたのだ
美佐子さんはそこにもしっかり気が付いていたようだ
「だって、何をすればいいの?
こんな、ちっちゃい子、まだ、寝返りも打てないし
ご飯作る手伝いとか、掃除はやってるじゃん」
じゃ、暇になって、シェリーちゃんが起きてるときは
絵本を読んであげたり
歌を歌ってあげて見たら」
「バカじゃないの!こんな小さな子にわかるわけないじゃん」
すると、美佐子さんは私の名前を出した
「それなら、お義母さんに聞いてみてごらんなさい」
そう言うと、いくつか買ってあったであろう絵本を
シェリーの横に置いた