発達障害の母
私たちの中に刷り込まれている親子関係
田舎だとやはり昔ながらの感じで
親のおかげで・・・・
そんなフレーズが当たり前のように使われる
「千絵さんもボケてはじめて本当のことが
言えるようになって楽になったんじゃない
だって、あのまま育ててたって独り立ちはできなかっただろうし
子供のために苦労を抱えて人生が終わったんだろうしね
そう、そう、火事でお金が入ったって
あの旦那だったからね~」
「でも、あの時、三ちゃんの黒焦げの死体
を抱きしめて、あんなに泣いていたのにね~
いや、ほんとのところはわかんないんだけどね」
田舎に帰ってくると
まず、自分が一番で夫は苦労を掛けるもの
子供はやたらお金のかかるもの
そんな話ばかりしている
じゃぁ、その二つがなかったら
この人たちはまともに生きていけているんだろうか?
康太の深淵
発達障害の母
私は涙が出てきて、その場をすぐに失礼した
頭にくるくる回るのは、あの頃の三ちゃんだった
いつも、教室の隅っこのほうから眩し気に見ていた私
あの頃の気持ちがよみがえって来た
なんて、すごい子供なんだろう?
同い年なのに、なんて優しい子供なんだろう三ちゃんのことを
『フランダースの犬』のネロだと思っていたし
『アルプスの少女ハイジ』のペータだと思っていたし
燕に自分の目の宝石を貧しい人に運ばせる
『幸福な王子』だと思っていた
そして、私には無理だとここ頃から恥じていた
私はいつだって、母を嫌い、そして恥じていて
そんな自分がとても嫌いだったから私は
三ちゃんには近寄れなかった
そこから
発達障害の母
ボケた三ちゃんの母親は
断片的にあの頃、爺さんには手を焼いた!夫が考えた!
火が回ってどうしようもないと思った!
三ちゃんの子育てに疲れていた!
自分が手でしっかり押さえていた三ちゃんに
『福が鎖につながれたままだ!このままだと焼け死ぬ!』
そう三ちゃんにしか聞こえないように囁いた
そして背中を押したのだ
三ちゃんはそれを聞いて火の中に入って行った!
だから、たいそうな保険が下りて
あの頃はよかった!
みたいなことを口走るらしい
その話はすぐに噂になり、みんな、そういえばと
驚いているのだが
三ちゃんの父親はとっくに死んでいるし
千絵さんはボケているし
皆、そんなに深刻なことだとも思わず
茶飲み話に花を咲かせているのが実情らしい
康太の深淵
発達障害の母
あのお葬式
たぶん、誰もが悲しみ、誰もが彼のために泣いていたが
誰よりも尊敬していたのが私だとは
誰も知らなかった
それも、鎖でつながれていた犬の福ちゃんを助けに戻って
焼け死んだと聞いたとき
私は涙が止まらなかった
「え?あれは寝たきりのじいちゃんがタバコの不始末で
火がでて、三ちゃんは一度逃げてたのに、福がいたから
もどったんじゃなかった?」
「それがさぁ
三ちゃんの母親の千絵さん
最近ボケちゃってね、町の老人ホームに入ったんだよ
そこに、山之上の沖ちゃんの娘がヘルパーさんとして
働いているんだけどね
誰彼捕まえては、話すんだって!」