発達障害の母

母には物をあげることによって

友人だと思いたい人間がたくさんいるし

その人たちがすべて母から物をせしめることを

目当てにうちに来ているとは思えないが

私が自分が子供の頃には買ってもらえなかったお雛様

ももちろん買ってもらっていないからと

少し奮発して50万ほどのものを送ったのだが

それも無くなっていた

 

あげたものは仕方がないが、母の目のなさにも涙が出そうだ

 

「ああ、あれね、京ちゃんのところに赤ちゃんが生まれて

女の子なのに、あそこってお金の苦労ばかりでしょう?

旦那さんがパチンコ狂いだしね

でも、あんまり高いものなら私も考えるけど

バスに乗ってK市の人形展を見に行ったら

1万前後で売ってたから、まぁ、いいじゃない」

 

私自身はお金の値段のことなど口にするのは

はしたないことだと思っていたから

言わなかったのだが、その辺りの目が母にあると思っていた

私がばかだったのだ

康太の深淵

沢村の言葉に康太は頷きながら

「今ならば、そう思うこともできますよ
でも、子供の頃は違っていた
姉さんと普通ってものになるのに
一生懸命だった
大学に入って、ミツホに会ったとき
なんだか、普通以上の幸せな家で育った
理想の相手に思えたんです
そして、彼女にも彼女の親にもすぐに気に入られたし
彼女の母親はうちには両親がいないってことも
詳しく調べることもなく
ミツホが姑にいじめられたりしなくて都合がいいと
思ったみたいですからね
あの時、詳しく調べてくれていれば結婚なんかしなかったでしょうけどね」

「でも、うまく別れられてよかったじゃない
私も普通の糧にはすごくあこがれたけれど
みぃや速水を否定することはできないから
自分が幸せなら、普通じゃなくてもいいって気が付いたのよ」

発達障害の母

母はたぶん、自分が普通ではないことに気が付いている

しかし、それを容認する自分には耐えられないのだろうし

みんなが母に対して、少し足りないと思いながら接するのを

物をあげることでカバーしようとしている

私が送って来たもの、弟の家が送って来たもの

自分の家で何かと作ったもの

なんでもあげてしまう

そして、そうやってやってくる人たちは

それを目当てじゃないかと私は思っているのだが

こればっかりはわからない

相手も何か食べ物を手にやってくるのが田舎の人付き合いだ

でも、私が知っている限りは

田舎でできたばかりの野菜のはずなのに

なんだかまずいし、家でいらないものを持ってきている気がする

これも、私にとってはほしいものでも何でもないから

そう、思ってしまうのかもしれない

母は何をもらっても嬉しそうにきゃぁきゃぁ、喜んでいるから

康太の深淵

ミキは康太に昔ながらのミキのカレーを出しながら
サラダとヨーグルトを添えながら

「あの頃って、カレーには肉が入ってなかったし
サラダやヨーグルトを添える経済的余裕はなかったわね」

夫の沢村は

「僕はそれでもかまわないよ
カレーだけが好きだから」

康太は笑いながら

「あの頃は普通っていうのに、すごくあこがれていたんです
金銭的に普通の生活ができないこともそうだけど
親が、特に母親が料理をしてくれるとか
子供のことを真剣に考えてくれるとか
そんな普通の家にあこがれていたから
今、あの頃のカレーに肉が入っていて、サラダとかあるだけで
自分がそこまで登って来たなぁって思いますよ」

ミキは少し考えながら

「そうね、普通のテレビに出てくるような
そんな家庭にあこがれたよね
絶対、自分はそんな家庭を作るんだって
ちょっと、気負いすぎていたんだわ」

沢村は

「普通なんて本当はないのに
テレビとか義務教育の中でみんなを一律にしようと
世の中全体が流れていたからね」

発達障害の母

私はあの頃のことは忘れていない

自慢ではないが私は田舎の小学校の中では

群を抜いて絵や作文がうまかった

それで、学校を代表して何かと表彰されたものだった

同級生は皆、その作品を見たり

普段の私の成績を知っているから納得してくれるのに

その子たちの兄や姉は弟や妹可愛さに

 

「どうせ、母親がああだから

差別どうのこうのに目覚めている人権派を気取ってる教師が

ひいきしてるんだろう

あんな母親の娘にしてはまともだから」

 

そんなことを聞こえよがしに言われたりした

ちょうど、その頃、そんなことを言っていた人たちだ

そんな人たちは長い間、この村に帰らず

東京で生活していた私と話すのは苦手そうだが

母がどんなに私の東京生活を自慢しても

ちょっと、薄ら笑いを浮かべながら話を聞いている

康太の深淵

それでも、康太はミツホとのこの関係を
やっと終わらせることができるとホッとしてもいた

ミツホの母はミツホを実家に連れて帰り
早速、離婚の手続きを始めた

ミツホの父親はあれ以来何も言わないまま
ミツホの母に慰謝料などもらうな
そう言ったらしい
ミツホの家はお金に困っているわけではなかったし
ミツホの母親にしてみれば
これ以上、康太とかかわることのほうが怖いと思ったらしく
二度と会わないようにミツホに言い聞かせていた

康太はその報告にミキの家を訪ねた
康太はすべてを包み隠さずに二人に話した
ミキはため息をつくと

「まぁ、よかったわ」

そう、康太を優しく見つめた

発達障害の母

母がいなくなれば、私はここには帰ってこない

ここに、何か私の興味をそそるものは何もない

それならばできるだけ深く付き合うのはやめて

そう、考えているのに

何かと村の人たちの好奇心の対象になっていて

遠慮なくやって来て私の近況を聞くおばさんたちは

悪気はないにしても

うんざりしてくる

玄関には母が出るのだが

好奇心丸出しで、家に上がってくる

そして、私に会うきっかけを、皆、持ってくる

 

「あ~ちゃん、ここらあたりもかなり変わったでしょう?

ほら、この菜っ葉懐かしいでしょう?

ここらあたりにしかできないからね

都会生活が長いから料理の仕方を忘れたかもしれないと思って

おひたしにしてきたよ」

 

私は人の作った料理が大嫌いだった

特に田舎の人は料理中に他人にあげるものだって

箸をなめなめ料理する人がほとんどで

そんな風に作った料理は食べる気がしない

それに訪ねてくるのはだいたい、私より10くらい上の

おばちゃんたちで、子供時代母のことで

冷たい目で見ていた人たちだ