康太の深淵

「私たちは結婚が遅かった上に
なかなか、子供にも恵まれなくってね
ミツホは本当にやっとできた子供だったの
だから可愛くて仕方なかったし
完璧な子育てをしたのよ
私は高卒だし、夫も大した大学は出ていないの
でも、ミツホは小さな頃から
公文式や能力開発研究会みたいな
勉強をしたし
それよりもあの子自身がすごいのよ
普通、子供って勉強を嫌がるでしょう?
でも、ミツホは朝から晩まで
何も言わずに言われたことをやるの
あ、康太さんのお家は
お兄様が大学の有名な教授でいらっしゃるし
何かと素晴らしいんでしょうから
お恥ずかしい限りですけどね」

康太は自分の家族の話はごめんだった

「はぁ父も母も早くになくなりましたから」

そう口を濁して家を出た

康太の深淵

その言葉はなんとなく
ミツホはそうじゃないかい?
そのタイプだった気がしたよ
そう言っていると感じて
その足でミツホの実家に手土産を持って
遊びに行った

「あら、今日はお一人?」

そう言って母親が嬉しそうに飛び出してきた

「あ、ちょっと、近くまで来たものですから」

もう、定年退職している
父親も嬉しそうに出て来た

コーヒーとケーキを前に
康太が不審に思われない程度に
ミツホの子供時代からの話を聞く
母親は自慢の娘だ
なんでも娘のことは答えたいという感じだ
そういえば、二人ともミツホの年にしては
結構な年だった

発達障害の母

「でも、中学頃から

なんとなく女の子につきまとうようになって

その頃は何をするわけでもなかったんですが

気に入った女の子の家までついて言って

帰るみたいな感じでした

その頃、うちの人がちょうど村長になって

村の人たちがみんなで追い出そうとしていたのを

誰にも人権があるんだって

一範を庇ったんです

それまでは良かったんですけど....


それが、急にレイプみたいなことになったのは

同級生の悪たちが女の味を教えたんです

それからは、本当に大変で.....


うちの人も本当に困ったんです」


「え?なんで放ってあるの?」

康太の深淵

「でも、それをたゆまぬ努力で
補ってくる生徒もいるんだ
もちろん、うちの大学だと
たゆまぬ努力をひたすらできる才能も
持っている
しかし、それは自分の知識欲からなんだ
だいたいがそういうタイプの生徒で
非常に我々も嬉しいんだが
たまに自分の知識欲からでなく
例えば親の願いだとか
他にやることを見つけられないとか
まぁ、面白くもなんともなくとも
毎日8時間、親の言う通りに動ける才能
もちろん、それも才能だろうが
そういう生徒もたまにいるんだ
だから、大学に入るまでは
ひたすら参考書をやったり、塾の言う通りに
やったりすれば目標はクリアできたけれど
さて、それがなくなると
誰かが支持してくれなければ動けない
そんな生徒もいるんだ」

発達障害の母

「この村から西の方にちょっと行ったところに

小波さんって家があるんです」


「ああ、もしかして昔、

山崎のバァがいたところ?」


私が小学校の頃

村の誰かの親戚のおばあさんが住んでいた

小学生には気持ち悪いおばあさんに見えて

誰も、そう呼んで近寄らなかった


「ああそうです

あのおばあさんには娘がいたらしく

おばあさんが亡くなって二、三年後に

子供を連れて越してきたんです

その、息子が知的障害があったんですけど

明確におかしいってこともなく

小学校の頃は普通に学校に通っていました

康太の深淵

「あ、、そうなんです
姉さん、僕たちは普通の家庭じゃなかったから
僕は普通であればどんなことでも我慢できるよ
料理が下手、お金使いが荒い、掃除をしない
そんなことぐらいなんでもないよ」

すると、沢村が

「長年、たくさんの生徒を見ていると
なんとなくわかることがあるんだ
うちの大学は日本では最高峰なんて言われて
基礎力を問われるセンター試験ですら
7割は点数を取らなきゃ合格できない
でも、中の学生にしたらそれは当然のことで
多くの学生はそこは当然のごとく
まぁ、努力しなくてもクリアできる
人間の集まりなんだ」

それは康太も納得した
自分も中学高校と普通に授業を真面目に聞けば
センター試験の方は苦労しなくても
合格点くらいは取れる

発達障害の母

恵子ちゃんといつもの喫茶店に行くと

マスターが嬉しそうに


「あ、あ〜ちゃん、久しぶりだね」


そうだ、最初の頃は少しの時間でも

母に拘らない時間が欲しくて

ここにコーヒーを毎日のように

飲みにきていたが

そういえば知らないうちに毎日来ることは

無くなっていた


嫌だ嫌だと思いながらも

どうやら母に慣れてきたのだろう


席に着くと恵子ちゃんが小声で

一範とやらの話を始めた