康太の深淵

「バカなの?
いい加減にしろよ
もう少し段取りよくできるだろう?」

そんな言葉を投げつけて
しょげているミツホを見ていられずに
家を飛び出した

そして、姉のところにまっすぐに行った
今までのことを話し
こんな言葉を投げつけてしまった自己嫌悪に
落ち込んでしまう

話を聞いてミキは

「生活していくのって他人同士なんだから
その辺は、ミツホちゃんが女だから
ああしなきゃ、こうできなきゃって
固定観念で押し付けているんじゃない?」

すると、横で聞いていた沢村は

「そういうことは考えて我慢したんだよ
な?そうだよな?」

康太は強く頷いた

発達障害の母

は母一緒に食べたがるから

一緒に食べるが

猫舌で食に全く興味がない母

しかし、人間が食事に対して

うんちくを行ったりするのはどうやら

かっこいいらしい

くらいの認識はあるから

口ではテレビの食リポ

言うようなことを言いたがる

しかし、トンチンカンだし

実際何が入っているのかあまりわかっていない


母のために一緒に食事をしたほうがいいのは

よくわかっているが、

今日は恵子ちゃんにかこつけて

外で食べよう

康太の深淵

話をしていて
あまりにトンチンカンな答えに
うんざりしてしまう

食事中もミツホが作った食事が
美味しくないのだが
たまにインスタントでない時には

「どう?頑張ったの!
美味しいでしょう!」

そう言って褒め言葉を期待する
そういえばミツホは何をやっても
褒め言葉を要求する
最初はひたすら嘘でも褒めていたが
その嘘を見抜かないから
ミツホはだんだんつけあがって来る

ミツホは何を作っても料理は下手だ
インスタントのラーメンでも
いい加減に作るからまずい!

ずっと、我慢をしていたのだが
ついに爆発してしまった

発達障害の母

そう言いながら時計を見ると

もう、昼食の時間だ


「よかったら、あそこの喫茶店ででも

一緒に食事しない?」


「あ、はい。でも。お母様は?」


私は母と食事をできるだけしたくない

そのぶん、心を込めて母の好きなもの

体にいいものを作るのだ

数種類作って目にも鮮やかに

母が喜ぶように気を配る

しかし、一緒に食事をして

こんなに食事がまずい人も

いないんではないかと思う


子供の頃の食事は白いご飯に

漬物、白いご飯にインスタントラーメン

白いご飯にとにかく

手のかからないおかず一品


その白いご飯も毎日違うできあがり

妙に硬かったり

柔らかすぎたり

とにかく料理と呼べるものが

出て来た試しはなかった


美味しいものは大概父の手によるものだった


康太の深淵

何にでもオーバーに喜ぶ
女子高生ならばそれでもいい
康太がミツホを可愛いと思っていた時ならば
それもいいのだが
今になると、それすらうんざりしてくる

銀座の高級スィーツも

「きゃあ~美味しい!」

スーパーの二個二百九十八円のケーキも
同じテンションで

「きゃあ~美味しい!」

慣れてくると、見識を疑いたくなる

そして、大概何をやらせても
失敗する
え?それって小学生でもできるよ
みたいなことも失敗する

話が下手!
うまく説明ができない

同じように東大の学友の中には
そういう人間がたまにいる
しかし、そういう輩は
その専門分野においては天才なのだ

発達障害の母

母は普段から自分脳内に浮かんだことを
気ままに話すから
トンチンカンなことが多いのだ

「ネコさんが村長になったおかげで
いいことはたくさんあったけど
あれを野放しにするくらいなら
前の賄賂まみれの村長の方が良かった」

説明はトンチンカンなのに
人の悪口はしっかり
言いにくいことも言えるのだ

「あ、恵子ちゃんは、ちょっと待ってて」

そう言って母には昼寝をしてもらう

恵子ちゃんのところに戻ってくると

「ごめんなさい。
その、一範って?」

康太の深淵

そういうことも、許せる
自分の生い立ち、あのボロい家
全てがミツホに文句を言えるような
そんな育ちじゃない
ミキが帰ってくるまで
いつだってぐちゃぐちゃだった

それよりも
ささいな言葉のやりとりに
苛立つことの方が多い

「ほら、この間話をしてた
ケーキ買ってきたよ」

すると、十中八九

「あ、私も買おうと思ってたの」

そういう答えが返ってくる

「あそこの修理、割り箸でなんとかなったよ」

すると十中八九

「私も同じこと考えてた」
なんだか、後出しジャンケンに負けたような
そんな気になってくる
後出しジャンケンで勝ったくせに
誇らしげにしている
そういう言葉の言い回し