発達障害の母

すると、ネコはおもむろに

 

「あ~ちゃんは、何かと苦労しただろう?

でも、俺たちみんな、あ~ちゃんはあ~ちゃんだって

思ってたんだぜ

子供のころは親の噂話とか

子供に聞かせちゃいけないなんてこと

思う大人はほとんどいなかったからな

俺、あ~ちゃんのことは尊敬してたんだぜ

みっちゃんが賢いのは医者の子だから

当たり前ってみんな思ってただろう?

小学校六年の時なんて、都会の大学生のいとこが来て

勉強教わったりしてたしなぁ

あれは、中学受験のためだったんだな

あの頃、中学で国立とか私立とかあるなんて

知りもしなかったからなぁ

あ~ちゃんは図書室に籠って、本ばっかり読んでたし

みっちゃんよりか頭がよかったしなぁ

でも、なんとなく、それを受け入れないみんながいただろう?」

 

二人が言わんとしていることはよくわかった

だから自分から言った

 

「母親があれだからね

そういえばみっちゃんのお母さんにはかなり

きついことを言われたことがあるよ

でも、村の中で母を一番ダメだって思ってたのは

私自身だったから、気にしなくっていいよ」

街の灯り

康太は少し悩んだ
もう、あれから15年
みぃはこれからどうするんだろう
姉に話さないつもりなんだろうか
そう考えていると
その沈黙を不思議そうに

「あ、気にしなくていいのよ
康ちゃんのところのことは
康ちゃんさえよければ、それでいいんだし
子供を作れって話じゃないから」

康太はみぃのことを考えた
みぃが姉に話していないのは
単に忙しいだけだからじゃないだろうか
あの、頭の切れるみぃはどんなことも対処できる
姉が知って驚いて、みぃのところに行っても
きっと、何でもないことのように割り切っているだろう

「姉さん、みぃに子供がいるんだ」

ミキは驚いて康太を見る

「え!どういうこと?」

発達障害の母

「馬鹿言えよ!

俺、結婚したの30の時

恵子は24だぞ!めちゃ普通!」

 

私は一瞬にタイムマシーンであのころから戻ってきた

 

「だって、恵子ちゃんって一年生の時の

天使みたいな時しか知らないから

そうだよね、大人になってるね」

 

そう、言って三人で笑う

 

「ネコんちが大変な時に支えたのが恵子ちゃんでさ

顔だけじゃなくってホントの天使だったわけ!

そして、今は息子がネコの子供とは思えない

イケメンで村中の女の子が狙っているんだ」

 

友くんが言うと

ネコは照れたように

 

「いや、嫁さんに似たからさ」

 

それはそうだろう!

今横にいるネコは人のよさそうな田舎のおっさんだ

 

「それに、こいつが頑張って家も元のような

分限者に戻ってるし

村長だしなぁ、村の娘たちが騒ぐのも

無理はないってことさ」

 

ああ、それで、つうちゃんは娘を嫁にと

野望を抱いているのか

「話は若いころに付き合った男の話ばかりで
私も、もう長くはないって思っても
うんざりしてたんだけどね
お母さん、一番、好みの男は康太だって話してたんだよ」

ミキの何気ない、そんな言葉に
康太は全否定しようとして
心のどこかに喜んでいる自分がいることに気が付いていた

「何言ってんだよ!あいつ、息子にも
色気ふりまいてんのかよ」

そう、いやそうに言うと

「まぁね~康太の気持ちはわかるけれど
それって、たぶん、お母さんの愛情表現なんだよ」

変な女を母親に持ったものだ
でも、今なら姉の言うこともわかる
長い沈黙の後
ミキがぽつんと言った

「速水だけだからね
お母さんの孫
男の子ができていたらどうなっていたんだろう?」

発達障害の母

母は知的レベルは低いくせに

姑息な手段をとったり、人に取り入ったりすることは

うまくできたりする

そういうところ、娘であることが恥ずかしくなるのだが

いっても仕方がないので

はいはいと適当に返事をする

それよりもネコと話しはしたが

子供がいるなんて聞いていない

つうちゃんが娘を嫁にって言うくらいだから

結構な年の子がいるのだろう

次の日、友くんに聞いてみよう

そう思って次の日店に行くと

ネコはまた、来ていた

 

「わ~よかった、ねぇ、子供がいるんだって

何人いるの?」

 

そう聞くと

 

「あ~ちゃん、それが大変なんだよ

ネコの奥さん、あ~ちゃんの知ってる人なんだぜ

誰だと思う?」

 

私には想像もつかない

 

「それが、あの、恵子ちゃん」

 

恵子ちゃんといえば

私たちが六年生の時に一年生に入ってきた

超絶美少女!

 

「え~ネコ、ロリコン?」

 

「お母さんがね老人ホームから
病院に運ばれて、それから一か月で亡くなったでしょう?」

康太はそのころ、まったく母のそばには寄らなかった
臨終にも立ち会わず
骨になって骨壺に入ったころ
顔を出したのだった

「病院に行ったらね、もう、ベッドから動けなかったから
私相手におしゃべりばっかしてたのよ
みぃもよく一緒に行ったけど
あそこは話なんかまったくないでしょう?
お金は全部みぃが出してくれたんだけどね
私も行きたくなかったけど
彼が行って来いよって言うから
あ、彼も結構問題を抱えたお母さんだったから
私たちみたいな感じじゃないけどね
ずっと、愛人さんだったんだって」

「でも、一人の人だろう?
うちみたいに、男なら何でもってやつじゃないだろうから
うらやましいよ」

「そうね、老人ホーム時代だって
やたらおじいさんにもててたって話
みぃが感心してたわ
みぃもそうなりたいって」

康太は母のそんなところは憎んでいたが
みぃに関しては哀れでならない

発達障害の母

「つうちゃんはやりてだからね

今の村長さんに取り入って

自分の娘をあそこの長男と一緒にしたいんだよ

あんた目当てに村長さんがコーヒーを飲みに

わざわざ、行ったって話をしたら

きっと、あんたに頼みに来るよ」

 

「ネコ、あ、今は村長だけど

まさか、私に会うためにコーヒーを飲みに来たわけじゃないよ」

 

友くんが私のために呼んだのは知っているが

母はそんなことを平気で言う

 

「何言ってるんだい!

村長はあそこの店ができるときは

あそこの店の都会から来た男に

肩をもって土地を安く融通したって話だよ

だけど、店が開いてからは一度も行ったことはないよ

コーヒーはきらいなんだろう

あんた目当てに決まってるよ

つうちゃんにはしっかりそう言っといたほうがいいよ」