「ちょっと、そこに立ってみて」

そう言われてみぃの前に立つ

「あら!素敵じゃない
速水は姉さんに似てっていうか
私もそうだけど
スタイルがいいわ
私よりも足も長いし
そっか、今、16よね」

顔はへいぼんだし、オシャレでもないし
頭も良くないし
今までスタイルを褒められたことがなかった
親たちは速水が普通なことを褒めた

二人とも普通じゃないほど
才能にめぐまれ
普通じゃないロマンチックな恋愛をして
何より母は美しい

歯に絹着せぬ物言いをする
みぃにそう言われると
何より嬉しい

発達障害の母

むかし、うちの家は周りが親戚だらけだった

すぐ上に祖父母、横には叔父夫婦

母にとっては姑と兄嫁が

すぐ近くに住んでいることになる


母はものすごくいじめられて

大変だと自分の身内に愚痴を言っていた

子供の私はそういうものか

と別に気にもせずに過ごしていたのだ

普通、子供は大概母親の

見方をするものなのだが

そんな気は全くなかった


私にとっての祖母や義伯母は

ものすごく優しくていい人だったし

母をいじめているようなところは

見たこともない


ただ、二人が母を嫌う理由は

今ならよくわかる

「さて、速水、安心して
食事にしましょう」

お手伝いさんが買って来て
セッティングしてくれたテーブルに誘った

それは文京区のあの家では
考えられないほど
オシャレで豪勢なものだった

「ワイン、シャンパン、あ、ダメか
まだ、16だったね」

「あの、おばさん.....」

みぃは笑って、

「おばさんには違いないけど
『みぃ』って呼んでくれた方が
嬉しいな」

たしかにみぃの見た目はおばさんなんて
まったくあわないビジュアルでもある

「みぃさん?私は何をすればいいの?」

金銭的な面でも甘えてしまおう

「このまま置いていっていいのかしら?
荷物とかはすぐに送りましょうか?」

「大丈夫、私が全部買ったげる
ファッション関係のネットショップもやってるし、速水ちゃんの好みもあると思うけどね
遠慮しないで言ってね」

速水はみぃの話に驚きながらも
今から、全く新しい価値観で
全く新しい生活が始まることに
ワクワクした

文京区のあの家は落ち着いていて
父も母も優しかったし
全てを受け入れてくれるのも
ありがたいとは思ったけれど
幸せではなかった

ミキは寂しかったが自分たちでは
速水を幸せにできないことはわかっていた

「遊びにはきてね!
パパと遊びに来るから」

すると、みぃが笑いながら

「来るときは必ず前もって連絡するのよ!」

そう言ってミキを送り出した

発達障害の母

誰も変わってないんじゃなかろうか

私もそうかもしれない

小さな子供の頃から

母親が好きだと思ったことが一度もない

それは家族みんなだった気がする


母親以外は人間として言ってはいけない

そんな言葉は知っていたから

母に対して不満を浴びせはしなかった

父はお酒に逃げ

弟は友人と遊ぶことに逃げ

私は本に逃げた

母の喋りに付き合っていると

聞いているほうが気持ち悪くなるのだ


みぃは速水やミキの気持ちなど
御構い無しに、あけっぴろげに言った
帰ってそのほうが話が早くもあった
ここで、みぃの仕事の手伝いをする
それだけでは
なんの解決にもならない
問題は速水の体だ
それを会ってすぐに
全部解決すると

「まぁ、お姉ちゃんもゆっくりしていってよ
速水も今日からここにいていいのよ
って言うか、横の部屋をプレゼントするわ
家具も服も用意してあげるから」

ミキが気の毒がって
遠慮すると

「長い間、可愛い姪に何にもできなかったし
会うこともできなかったんだから
これくらいはさせてちょうだい」

ミキはみぃの頭の良さは
よく知っているから
全部任せることにした

母もみぃのおかげで幸せに旅立ったのだ

発達障害の母

化粧をしている母を見て

イライラしたが黙って化粧直しを

してあげる

すると、嬉しそうだが


あ〜ちゃんの仕方だと

顔がぼんやりしちゃうようだけど」


そんなことを言うので

これから出かけるわけでもないから

一番派手な母のお気に入りの

シャネルの真っ赤を塗ってあげた


少しフランス映画に出て来る

老婦人のようになって

私は心が落ち着いた

雅ちゃんは小学校の頃のまま

頭が悪く不衛生で

その頃女子の間で流行っていた

香り消しゴムをこっそりくすねるような

子供だった

でも、次の日、それは自分のだと

すぐに使い始めたりするような

バカなところもあって

今もそのままなのに驚いた