掟
ふんわりとだが、そのくらいの認識の人だ
「まぁ、速水ちゃん?
大きくなったわね~」
そう言って嬉しそうにハグして来た
速水は男子の時よりも
ドキドキして、すごく嬉しかった
話はここに来る前に電話で軽くしておいた
「お姉ちゃんも久しぶり!
何か食べる?飲む?ちょっと待ってて」
そう言うと、お手伝いさんに
二人の好みも聞かないまま
近くの高級スーパーで買い物を頼んでいる
お手伝いさんが出て行くと
「それで?
私を手伝ってくれるんだって?
それが一番いいと思うわ
男には不自由しないから
大丈夫!
ケータリングみたいなものだし
子供だってできないようにしてあげる」
発達障害の母
おぞましさに背筋が凍った
そんな人間に、さっき笑われたのだ
いや、でも、そんなおぞましい話題から
なんとなく、その星田医院の後家さんにも
いい印象は持てなかった
家に帰ると母親が
私が買ってあげた化粧品の話をして
嬉しそうにしている
母は昔から化粧は大好きで
家族で出かける時には
鏡の前に1時間は座っていて
出かける時間も構わず
自分の顔を撫で回していた
その頃は母親とはそういうものだと
何も考えていなかったが
化粧をしても美しくはならない母を不思議な
気持ちで見ていた
自分が化粧をするようになると
母は小学校三年生がこっそり
鏡台の前でやるような化粧だった
東京の巣鴨あたりに行くと
年をとって、若い頃の化粧が似合わなくなり
濃い化粧で見苦しいおばあちゃんも
けっこういるが
母の場合は50年も前からそんな化粧だった
発達障害の母
「いじめ殺したって?」
私が驚いて尋ねると
「まぁ、たぶん本当のことだと思いますがね
あそこの爺さんが倒れて半身不随になった時に病院に入れるのはお金がかかるからって、息子と母親が二人で面倒見るからって家にいたんですが
その姑さんも意地悪な人で、看病を雅ちゃんにさせれば、必ずいじめ殺すだろうってふんでたようで、看病は子供ができない嫁がするのが当たり前だってさせたんだけど、案の定、雅ちゃんもあの性格だから、まともには見ないし親戚の話ではその爺さんあざだらけだったって話ですよ
それもベッドの端に紐をくくりつけて自殺してたからね〜その時間雅ちゃんはずっと、家に一緒にいたはずなんだから止めることはできたんじゃないかって.....
お姑さんにしてみれば邪魔な夫をバカな嫁がいじめて自殺に追い込んでくれたって
なんか、凄まじい話ですよ」
発達障害の母
帰って来ると
延々と苦労話が始まった
「とにかくいじめられてなぁ
子供ができないってだけで
こんなにいじめられなきゃならないなんて
苦労したんだよ〜
今まで我慢したのに
50幾つになって真剣に
離婚してくれなんて言われるとは
思ってもいなかったわ
そういえば、あ〜ちゃん
星田医院の先生、光男となかよかったよね
あの人死んじゃってさ
医者の不養生ってよく言ったものだよね
でもさぁ、あの、奥さんがくせもんでね
絶対、うちの旦那と一緒になりたかったから
毒でも盛ったんだと思うよ」
あまりの話に絶句していると
雅ちゃんの妹が呼びにきた
「お姉ちゃん。離婚でお金もらうまでは
あそこの家にいなきゃ
もう、いい加減に帰りなよ」
そう言って連れて帰った