誘惑の花

美奈子の家はごく普通の農家で

父も母もまじめだけが取り柄のような人たちだ

姉が結婚して家を出てからは

美奈子が家を継いでくれる、婿を取ってくれる

美奈子はこの辺りでは、誰に言わせても

いい器量で通ってるし、高校でも中の上あたりで

しっかり者だし、高校を卒業してから

近所の歯医者さんの事務を手伝ったりして

嫁に欲しいと言う話なら、いくらでもあった

両親はそれでもいいと思っていたが

美奈子は家を継ぐと言う

嬉しくて、期待もしていた

器量は良いのに男にはほとんど興味もないようで

それも、親としては安心できる娘だと思った

 

それが、歯医者が代替わりして、息子のほうは

歯科助手しかいらない、事務は嫁が資格を持っている

と言うことで、仕事が亡くなった

丁度、近くに農協の工場が建つと言うことで

それが出来上がるまで、

今の喫茶店でバイトを募集していると言う話を聞いたのだ

美奈子は働き者で、じっと家にいるなんて罰が当たる

そう思ってバイトをしようと決めたのだ

父親は反対したし、母親も工場が建つまでくらい

家のことを手伝っていればいいじゃないか

父親にしてみれば、喫茶店はスナックと変わらない

娘をそんなところで短い間とはいえ、働かせたくなかった

 

「お父さん、大丈夫!私はしっかりしているし

バイト代がいいんだもの

家のことは二人で十分なんだから

バイト代が入ったら、居間に

クーラーを買おうよ!」

 

美奈子はそんな子だった