誘惑の花

京子は美奈子を褒める佐由美にイライラした

電話番号くらい、覚えるわよ!

何、その家庭!姉がそんな人なら美奈子って女も

そういう所、あるんじゃないの?

そんな風に心で思っていると

 

「結局、美奈子さんが養子を取るとかで

俊哉さん、婿に入ってもいいぞ~なんて冗談言ったりして

美奈子さんにメロメロだったから

美奈子さんも本気で付き合う事考え始めたんじゃないかな~」

 

「農家の家なら俊哉のあの体格!

だいたい、俊哉んちも農家だし、俊哉は次男だし

言うことないじゃん

そう、それで、毎日、カウンターに来て

帰りにドライブに誘って、ドライブから進展しない頃だったな

あのカウンターでお客さんが結構入っている時のやり取り」

 

佐由美は手を叩いて

 

「あれ、すごかった~私、仕事よりも気になって

俊哉さんのことずっと見ちゃいましたよ」

 

どんな様子かわからない私に

店長が話してくれた

 

美奈子がコーヒーをサイフォンで入れている

カウンターのすぐ前に座って

いつものように俊哉は

 

「ねえ、今日もドライブ行く?

いいかげん、ご飯くらいいいでしょう

それとも泊まって帰るとか?」

 

断られるのが怖くて、そんな冗談交じりにコーヒーを飲んでいた

美奈子は知らんふりでコーヒーを入れていた

横は製材所の社長や保険のセールスのお姉さん

近所のうどん屋のお兄さんに車屋のおっさん

誰もがこの辺りをよく知っている常連で

俊哉がすごい悪だった頃を知っている人間達だ

美奈子がしっかり者で真面目なのもよく知っている