小百合の幸せ

イメージ 1

綾子は小百合を本気で憎むかもしれないと思う
今までは、なんとか、どんなに生まれで負けていても
子育ては負けてはいない
そう、自負していたのに、章子の近況は
幸せそうで、とても自分の子たちには手に入れられないものだ

仕事をしていることは、コンプレックスでしかない
専門職をバリバリとやって、子育てもちゃんとしているなんて
後輩からは憧れられるが
仕事に100パーセント力を入れるなんて贅沢なことはできない
子供たちが最優先!
そんないい加減な仕事の仕方は、自分では納得できない

徹底的に負けている
特に小百合には完敗だ

多くの人間は『勝ってる』とか『負けてる』
とか一体何なの?
そんな尺度はバカげていると言うだろう
でも、妾の家の子供に生まれて
いつだって本妻の子に負けてはいけないと言われて
育った綾子には、他の価値観などあろうはずがない

小百合の幸せ

イメージ 1


ふたりとも、学費の心配のほうが
勉強の心配の後に来るような生活だ

小百合のところだった、章子は自分たちの母校にいて
ごく普通の成績で
あまりぱっとした所のない子だと聞いて
安心していた
彼氏ができて、何かと大変だった話は小百合から聞いた
小百合は嘘はつかないし
綾子相手にはなんでも、喋る

最初は少しほくそえんで聞いていたのに
その、彼である雅紀は中卒であっても才能にあふれているのだろう
社長を見込まれて、今や資金を出してくれる人間だっているのだ

自分の子たちは恋や愛どころじゃない
研究や勉強もお金との戦いで四苦八苦している

綾子は本当は専業主婦にあこがれていた
母との生活の中で
もう、今では古いのかもしれないが
夫が働いて、自分は家で二人の子供の面倒を見る
そうしたかったが、そんなことは幼稚園にやるのですら
無理なことだった

誘惑の花

それに、お互いの体に飽きたのかもしれない

田舎では全く違うエリア、全く違う階層

京子の友人たちが人間とは思っていないほど

毛嫌いしている俊哉なのに

こんなに離れがたいのはセックスの相性がいいからかもしれない

 

京子の夫は誠実で優しいおことで、

俊哉のセックスとは比べ物にならないほど

行儀のいいものだった

長い付き合いの中でも俊哉は、悪であった頃の片りんも

京子には見せなかったが

多分セックスのやり方はその世界のものかもしれない

 

そして、お互い、もう、会うのは辞めようと決めた時から

どちらも全く連絡しあうこともなく

すんなりと会わなくなった

小百合の幸せ

イメージ 1

綾子は全くお金も貰えないまま
放り出された
そこからは苦難の連続
それでも、歯を食いしばって大学を卒業して
今の仕事を手に入れ
夫と結婚して、何とか子供も大学まで行かせた

特に子供の教育には小百合や学友たちには絶対負けたくないと
苦労して今の大学に行かせて
なんとか、勝っている!
そう自負していたのに、ここにきて何かが抜けてしまったように
負けた感が半端ない

私立の小学校には二人とも行かせられなかった
金銭的に絶対無理だったが
二人とも成績がよく、中学受験で
難関私立に入れたのだ
学友たちの子供の中では、いつだって一番で
それだけが楽しみで頑張れた

でも、こうしてすべてが終わってみると
やはり、妾の子で、お金は全くなく
母親は自殺したような家では負け組だ

中学の時は綾子の子の足元にも及ばなかった子が
今やたっぷりお金をかけてもらって、医者や弁護士となっている



誘惑の花

それから、二人の関係は京子の子供が生まれるまで

続くことになる

俊哉は三人の子どもができ

家庭内は幸せに満ちていた

美奈子は俊哉が田舎では破格なほど

稼いでくれることに満足して

ある程度遊ぶのは仕方がないと思っていた

子供の世話で手いっぱいって言うのもあるし

俊哉が結婚してから思いのほか、誠実で

家族を大事にしてくれるから

東京に仕事に行った時に、少し遊ぶくらいは

と思い始めていたのだ

その相手が風俗とかではなく

昔あの喫茶店にいた京子という女だとは

思ってもいなかった

京子は東京のサラリーマンと幸せな結婚をして

それから二年後に子供が出来たので

さすがに、子供ができると不倫なんかしている

親にはなりたくないと考えたのだ

小百合の幸せ

イメージ 1

人の気持ちを考えずに、思いついたことをしゃべるのに
家に帰れば、父や母は愛にあふれた家庭がある小百合

学校では一日中、友達の間にいるときは
本当に思っていることは心深くに隠して
常に正しい、相手が喜ぶことを話す
授業は全力で受けて、勉強も完璧にする
へとへとに疲れて帰っても
家に待っているのは、いつだって愚痴しか言わない母親
それでもお金があるうちは良かった

大学に入ったとたんに父は死に
母は本妻に殺された
これは文字通り、殺されたのだ
父の葬式に行って、相続についての話し合いがあるから
綾子は先に帰ってと言われた

家でぼんやりしていると、母が倒れたから
すぐ来るように言われ
言った時には母は死んでいた
それも、自分で青酸カリを飲んでだと言われた

「母はそんなもの持っていません」

何度そう言っても警察は
取り合ってくれず、父の親族はみんな揃って
自分で勝手に、みんなが見ている目の前で飲んだと言う

誘惑の花

俊哉は困った顔をした

 

「だって、奥さんいるでしょう」

 

美奈子のことはよく知っていたが

全く知らない顔をした

子供もいるのだ、ここに泊まっていいわけがない

俊哉はすっと、京子に近寄ると

うつむいていた京子の顔を覗き込むようにしたかと思うと

軽いキスをした

そして、驚いている京子をすっと抱き上げると

そのままベッドに押し倒し

 

「会いたかった」

 

そう言って抱きしめてきた

京子は何も言えないまま、されるがままになり

そして、思い切り抱き返した

そう、ただ、会いたかった

もし、俊哉が美奈子にあきて

ただの浮気に来たのだとしても

それでいいと思った