タケオという男

「タケオって外で客と昼間は絶対会わないって
決めてたし、あいつ、夜の関係者で特に女とは
絶対にしゃべらないって決めてたくらいだから
ああやって、話ができるのはハーミーしかいないだろうって
タケオから推理したんだ
ハーミーのことは尊敬してたからね
でも、すごいな、どこかの堅い家のお嬢様もできるんだ
服脱がなくても凄い女優なのに、もったいないな」

そんな木佐の話を聞きながら
木佐の女がどうのと言っていたタケオの話を思い出した
その女は木佐以外に一度だけタケオを呼んだことがあったらしい
それかな?
まぁ、想像だけどその木佐の惚れてる客の女が
タケオを気に入っていたのかもしれない

女を嫉妬深い生き物のように世間では言うが
実は男のほうが手に負えないのだ
速水は一言もしゃべってないのに
木佐はよくしゃべる

発達障害の母

結婚してどのくらいで恋が冷めて

母の本当の姿に気が付いたかはわからないが

それは比較的早い時期だったと思う

父の母、私の祖母にあたる人は割と早くに亡くなって

その後に後妻である香苗さんが来たのだ

香苗さんには二人の子供もついてきた

姉のほうはちょうど父と同じくらい、そして弟は

超絶美形の五才下くらい

香苗さん自身も美人で芸者さんだったとかいう話もある

もう、昭和の始めの頃の話だ

その姉のみつさんと父を結婚させようという話が出ていたらしい

その頃の祖父は金銭的にも羽振りがよくて

二人が暮らす家まで建ててあった

タケオという男

木佐はもう一度速水を店の中に誘った
速水は今の自分をハーミーとわかる人間に驚きだ
たとえ、一度寝たことがあるとしても・・・・
木佐は速水のその疑問に答えるように
席についてコーヒーを頼むと

「いや、今、目の前にいてもわからない
でも、さっきの、あいつタケオだよね
タケオは雰囲気が随分変わっていたけど
すぐにわかった
急に消えちゃったと思ったら学生やってるんだな
何?カップルのふり?
いやいや、俺が見ればそんな仲じゃないことは一目瞭然
タケオはもう、戻らないの?
ファンのババァどもがうるさいんだよね
タケオちゃん、買いたいって、いくら出してもいいって」

速水は木佐の話に悪意を感じた
何故だろう?
二人の間に何の接点もないはずだ
仕事仲間の時もお客が被ることもなかったし
あ・・・・

発達障害の母

父は田舎の公務員で出世もしなかったがバカではなかった

父っ子である私は小さなころから

父からいろいろな話を聞いていた

それは今思い出しても理屈の通った、感情的など

薬にしたくてもない、楽しく興味深い話だった

母は父を派手好きで男らしい人

そう子供たちに話していて、弟はそう信じていたようだ

でもそういう人ではなかった

派手に人の口に上るなんか絶対に好きではない人で

それは母の希望、母が父の本質になんてまるで興味がなく

ただ、自分のこうあるべきという愛を押し付けていただけだ

恐ろしいことだ

母と父は皆からは恋愛結婚だと思われ

母がそれを吹聴して回ることで成り立っている

父は結婚して半年もたたないうちに

母が普通でないことに気が付いたようだ

タケオという男

お茶を飲み終わるとダッフルコートに手を通しながら

「まかせといてね!このままだと東大は無理でも
慶応ならば行けそうだよ
ちゃんと大学を出たら、働いて返すからね」

そう言って帰っていく
感じよくて、二人の間柄が
男を買う若い女と、体を売る男だなんて
きっと誰も思いはしない
今では速水も質素なお嬢様のような恰好をしているから
見た目は普通の誰が見ても雰囲気のいいカップルだ

速水は苦笑いしながら
会計を済まそうとすると
細い、いかにもホストにしか見えない背の高い男が

「もしかして、あなた、ハーミー?」

それは木佐だった

発達障害の母

私はごく若いころから

多分、中学のころから恋愛結婚に憎悪を抱いていた

父や母の世代はほとんどがお見合い結婚

親族の中で物のわかった伯母や伯父などが

その子にあった相手を探してくる

その親族までも調べて、一番釣り合った相手を見つけてくれるのだ

どうして父や母はそうしなかったんだろう

父の親族はどちらかというと誰もが遠慮がちで

人を支配するなんて考えもしない

多分、それは立派なことだったのだろうが

父の恋愛結婚のせいで、私は一生

母について悩まなければいけないのだ

タケオという男

ミルクティーを飲みながら

「ねぇ、ハーミー、ちょっと聞いて
朝、一番にお味噌汁をちゃんと出汁を取って作るとさ
最高の油揚げとか買いたくなって
予備校終わりに、デパ地下とか回ってみるんだ
卵焼きもすごくうまくなったよ
今度食べさせてあげるよ
そして、洗濯して洗濯とかしながら単語を覚えたりするんだ」

速水はまるで知らない男だと思う
でも、このタイプは大好きだ
黒い髪の毛にバングルは重くて、黒縁の眼鏡が似合って
ものすごくかわいい
服もどれもブランドものだったのに
今はすっかり、ユニクロ

「あ、この服、ユニクロなんだよ
生活費をもらっている身で高い物は買っちゃいけないよね」

速水はミルクティーに砂糖をたくさん入れて飲むタケオを笑ってしまう
ドンペリなんかボトルで飲んでいたのに・・・・