その先

私はすぐに頭に充くんが浮かんだ

いや、村の誰もがそう思ったし

あの婆さんと同じ屋根の下に暮らしていたら

そうなるのかもしれない


充くんの家は後ろの土地に

大きな家を建てる途中で

なんだか落ち着いていなかった

警察の車が止まっていた

小さな村だ

調べればすぐに充くんの名前が出たのだろう


私が遠巻きに、家を見ていると

後ろから声がした


「花!俺が犯人だと思ってるのか?」


私は慌てて首をふった

いくらなんでも

そんな残虐なことはしないだろう

一緒に勉強してみて

すごく冷静で頭がいいのは知っていた

でも、こんな逆境にいたら

おかしくなるかもしれないとも思う


「俺、犯人知ってる!」


「え?警察に言わなきゃ!」

その先

「何で?」


私は言葉に詰まった

警察に知らせるって言うのは

当然のことじゃないの?

それに、今、充くんがきっと疑われてる


「警察に言うのが本当だって

わかってるけど

真面目にちゃんとしていたって

いいことなんかひとつもない

犯人を脅してお金を取る

そして、婆さんから逃げだして

1人で生きる」


私は充くんの言うことが

嫌になる程、よくわかった


母親は充くんを置いて離婚

父親は病気で死亡

引き取ってくれる親族は

あの婆さんだけ

父親の保険金は全く充くんには渡らない

噂だと食べ物もまともに与えられてないとか


私は何とも言いようがなく


「うち来て、ご飯食べない?

今日、母さん。カレーって言ってた」


私が通っていた小学校は

給食がなかったから、充くんは

この村に来て以来、

ろくなものは食べてないはずだ

そう、何となく思ったのだ

その先

充は躊躇していたが

カレーなんていつぶりか忘れるほど

食べていない

大人しく私についてきた


母は大喜びで


「充君はカレーに何入れるのが好き?

うちはお父さんは唐揚げで

花はゆで卵!

どっちものせてあげるね」


父も嬉しそうに私を見た

よく連れてきた!と言ってるようだった


充君はただ黙々と食べながら

ポタポタと涙を落とし始めた

母が黙ってティッシュを渡した

私も涙が出てきた

お父さんが死んでから

何もいいことがなかった


「カレーに唐揚げって、

お父さんが作ってくれた

ゆで卵も美味しいんだな!」


お母さんも泣き出してしまった

すると、お父さんが


「しばらく、ここに泊まれよ!

婆さんには何とか言っておくから」

その先

風呂から上がって
充くんは私の部屋に来た

「何やってるの?
まだ、開成のお兄さんの問題、
やってるの?」

「うん。やってみる?
私だいぶ進んだんだよ」

「花、すごいな!
別に中学受験するわけでもないんだろう?
大学に凄いとこに行きたいとか?」

私は首を振った

「全然!ずっと、この村にいる
ここが好きなの
で、勉強もゲームよりも好き
勉強してれば親も安心だし
学校の勉強はよくできるようになるし
何よりただ、楽しいの」

充くんは問題を返しながら

「僕はいい!勉強したって
もう、どうにもならないんだ
アイツ、猫なんか殺してないで
うちの婆さん、殺してくれればいいのに」

その先

「アイツって誰?

あの鎌持って歩いている人?

あの人はそんなことしないと思うけど」


充はこの村に来て

まだ、日が浅かったから

鎌の人は知らないはずだ


「それ、誰?俺が言ってるのは…」


充くんは躊躇した

それはそうだろう

脅迫しておばあさんを

殺してもらうとまで言ったのだ

急にごまかすように


「とりあえず、安心して

絶対に僕じゃないから

それより、あの婆さんは僕が帰らないことで

この間のように怒鳴り込んでこないのかな」


私は充くんを気の毒そうに見ながら


「うちに置いといてくれると

ありがたいって、あの家から

犯人を出すわけにはいかないからって

うちのお父さんに言ったらしい」


その先

それでも充くんは

私の家にいるあいだ学校にも行き

母が作った弁当を嬉しそうに

他の友達と食べ


帰ってきたら私と宿題をしたり

図書室から借りてきた本を読んだり

ほとんど、私といた


そんな日々が続き

猫を殺される事件は

嘘のようになくなり

警察もうろつかなくなった


その先

それでも充くんは

私の家にいるあいだ学校にも行き

母が作った弁当を嬉しそうに

他の友達と食べ


帰ってきたら私と宿題をしたり

図書室から借りてきた本を読んだり

ほとんど、私といた


そんな日々が続き

猫を殺される事件は

嘘のようになくなり

警察もうろつかなくなった