その先
その先
澄子ちゃんのその言い方に
私はしみじみ
「苦労したんだね。ご苦労さん」
そう心から言った
どんな人生かはわからないが
あの母親が先月まで一緒だったのなら
澄子ちゃんの苦悩はよくわかる
「あれから、東京のこの家に帰って
私は中学受験をしたの
でも、母の気にいるところには入れなくて
私は父の勧めに従って
大学まで内部進学で行ける
Y女子大の付属に入ったの」
ああ、田舎ではとてもすごい
お嬢様学校で通っているところだ
「父はそれで、十分だ
この学校で英語が完璧になれば
就職だっていいところに入れるし
女子アナ御用達の学校だって
喜んでくれたんだけどね
母の頑なさは父や私には
どうにもできなかったの」
その先
「まぁ、それはご愁傷様
ご仏前にお参りだけでも」
私は実はそういうタチではないのだが
常識的な反応をした
すると、澄子ちゃんは
「ないからいいのよ!
お葬式も仕方なくやって
誰もきてくれなくて
父すら来ない葬儀で
私は、やっと母からの呪縛から
解き放たれたの」
それは遠い昔
私が澄子ちゃんの母親から
言われもないことをされた
あのことをベースに
私には説明は不要でしょう?
そういう含みがある気がした
その先
「なんか、変わってないわねぇ
東京にはどうして?」
澄子ちゃんは落ち着いた口調で言う
私の方がドキドキしている
東京に来た経緯を話すと
「まぁ、じゃ、これからは
しょっちゅう会えるわね
お孫さんが中学生?いいわねぇ!
私は結局、結婚しないでずっと一人」
そう言われて周りを見回す
写真が一枚もない
「ご両親は?」
「母が先月亡くなったの
父は私が中学の時に離婚して以来
会ってないわ」
その先
私はそれに対して反発していた
澄子ちゃんの家は百姓の自分の家とは
絶対に違う
お母さんだって、うちの母親とは
全く違う
うちの母親がスカートを履くのは
学校の行事の時だけだし
化粧だって滅多にしない
私の勉強だって見ないし
テレビドラマを見るのが趣味の人だ
そう、自分のような家のものが
手紙の返事を期待することが
間違いなのだ
そう思って、あの時手紙は書かなかったのだ
こうして、会いに来てみると
東京で高級住宅地のこんな大きな家に住んでいる澄子ちゃんは
やはり、あの時と同じ気持ちで
対面している自分に気がつく
澄子ちゃんは、やはり