速水の悩み

恋愛なんか全くバカらしいものだ
大事なのは人間同士の信頼関係とか
服の趣味、好きなもの、同じ食べ物を食べた時の反応
そんなものがお互い好ましいかどうかの気がする

ミキは沢田の仕事がまず好きで
職場ももちろん好きで
服の趣味が好きで、沢田の生い立ち
母親が立派な教授のお妾さんだったところ
今住んでいる家の趣味の良さ
今住んでいる家は沢田の父親が母親に買ってあげた物で
文京区のこじんまりとした、自然に囲まれた美しい家だった

沢田はたぶん、風俗の女にしては教養があったこと
中卒と聞いて驚いていた
風俗の女としては趣味が良かったこと
ミキは派手なものや安いものは着ない
お金をかけたくないときは、自分で丁寧にブラウスとスカートくらい作る

発達障害の母

私の下宿は友人を入れてはいけない決まりだった

高田馬場の近くの下宿屋で、男子学生ばかりだったところを

無理やりに安さに惹かれて、入らせてもらったから

下宿人同士の交流すら禁止だった

修二は相変わらず、店で寝泊まりしていたし

私たちは夜の公園で済ますしかなかったのだが

そのうちに、修二が

 

「俺、部屋を借りられるくらいのお金貯めたんだ

一緒に住もうよ」

 

そう言い始めた

私は初めての男ってものに夢中にはなっていたが

修二に生活を脅かされることは良しとしなかった

東京に出てきた目的

貧乏な学生生活でも勉強を頑張って、いい会社に就職して

早く、田舎を断ち切りたかったのだ

速水の悩み

「パパがずっと、追っかけてくれたから
長いこと時間はかかったけれど、一緒になれたかな」

「どのくらい?」

「10年くらいかな」

速水はほっと溜息をつくとうらやましいと思った
父は本当に偏見のない立派な学者だから

タケオにはそんな所一つもないし
速水を追いかけてくれるなんてことは考えられない

ミキは速水の相手のことはみぃに聞いていたが
会えて、話はしなかった
恋愛なんてものに、本当に価値があるのかどうか
自分でもわからなかったからだ

自分と沢村のことは口にすればそう言う風な事情しか
話せはしないが、本当は
全く違うような気がする

発達障害の母

でも、修二は首を振る

 

「ううん。男は次々に変わるけど

いつだって僕がいないとダメなんだよ」

 

ああ、そういう風に考えるのか

私は自分が恥ずかしくなる

私には父がいて、母親はまがりなりにも

母親という役割をやらなければと考えていた

修二の考えるように考えられない私の気持ちが汚いのだ

最初は少しバカにしていた修二に畏敬の念を覚えるようになると

二人の間は急速に近づいていった

 

修二は母親が男と逃げている間に

施設の世話にならなくなると

ずっと、繁華街で暮らしていたらしく

今、考えると、女の子の体の扱いはものすごくうまかった

速水の悩み

買い物帰りに二人でランチをして
沢村にお土産のスィーツを買う
素晴らしく楽しい時間ではあるが
二人でいても話がちっとも続かない
普通の母親ならば、今まで離れていた時間
どんなことをしていたのか、何を食べていたのか
料理は?みぃ以外の知り合いは?
聞きたいことは山ほどあっても
聞くことはできない

速水のほうが気を使って色々聞きたいことを聞いてくる

「パパとはどうやって知り合ったの?」

家を出るまでの速水には話せなかったこと
でも、ティールームちゃカフェで話せる話でもない
沢村が外出していて
二人でデザートの食べるチーズケーキを焼きながら
何となく話始める

「うちのおばあちゃんの話はみぃから聞いた?」

「うん。みぃさんが子供のころ、一緒に連れて出ちゃったんでしょう
そのころからずっと、今の関係の仕事だって言ってた」

「ママもそうだって話はみぃから聞いているわよね」

発達障害の母

父親は顔も覚えていない、物心ついたころには

いつも母親と二人だった

だいたい、東京の繁華街をうろうろしていた

母親はいつだって

 

「あんたはバカなんだから、もう少し

バカなふりをしときなさい

計算なんかできないふりしときゃいいんだよ

自分の名前も覚えられない感じで、わかった?!」

 

新しい男ができると、いつだって、バカなふりをさせられて

その男憐れみをかう役どころだった

そして、男と一緒になれると修二は施設に入れられて

男に逃げられて寂しくなると迎えに来る

そんなことが子供時代のすべてだったという

修二の子供時代の話を聞いていると

自分がどんなに幸せだったか、何も知らなかったと

泣きそうになる

 

速水の悩み

銀色の長い髪の毛をミディアムボブの
上品な濃いめの茶色に変えた
ハーミーの時はできるだけ二次元に寄せることで
男たちの後ろめたさを消すように銀色の髪にしていたのだが
二次元に寄せてもその湧き出るような色気に
誰もがおぼれた物だったのだが
その髪の毛を、まず、やめた

服は部屋と事務所、撮影がすべてだったから
だいたい、黒のジャージ
服はわからないから、ママが選んでと頼ってくる

ミキは長いことこの日を待っていたかのように嬉しかったが
少し、トラッドが入っているお嬢様路線の服
それは、ミキが若いころに来たかったブランドで
風俗で働いていた自分なんかが来たら・・・
おこがましい気がして買えなかった服