発達障害の母
お金がなくてバイト三昧の日々
恵子ちゃんと二人、頑張ってはいるけれど
ディスコなんか行けるのは一年に一回がいい所
勉強も大変だし、同じ大学生でも
あのディスコに来てたような
前髪を立ち上げて、まっすぐな髪の毛をなびかせて
ブランド物で身を包んでいるような子たちとは人種が違う
そんな愚痴を言うと
修二は決まって真面目な顔で、少し照れながら
「かわいいし、あんな子たちより絶対スタイル良くて
全然、綺麗だよ!」
こう、言ってくれるのが待ちどうしくなる
そして、彼の口からぽつりぽつりと
自分の話が出てくるようになった
速水の悩み
発達障害の母
長い時間会えるわけではなかった
私がお金がなくて忙しいから、こうやって夜話すためだけに会えても
30分がせいぜいだった
でも、彼は会うと決めたら絶対にその30分のために来ていた
雨の日でも、傘もささずに待っていたりした
恋なんかには全く興味のなかった私だって
いい加減、そんな気持ちになる
それに、絶対、私の話すことを否定しなかった
小学校のころから、本を読んでいても、勉強をしていても
弟の面倒をちゃんと見ていても
母独特の価値観、とにかくじっとしているのは罪
動いて何かしていなければいけない
それが立派な人間だと言う母の価値観から
いつも叱られていた私には本当に素晴らしい時間だった
そのうち、私は修二相手に本音をいつも話すようになっていた
速水の悩み
発達障害の母
それに、修二の手の握り方にはまったく
男女のそれを期待しているような物はなかった
「今日は仕事、休みなの?」
修二は頷いた
「火曜日はいつも休みなの?」
「うん。」
「ふ~ん、どこに住んでるの?
遠いの?」
「ううん、あそこのディスコの休憩室で寝てる」
「え?自分の家は?」
「もう、そろそろ自立しろってお母さんが言うから」
もちろん、ディスコクラブの休憩室で寝起きしていて
母親に追い出されたなんて、今の私ならば
それくらい、アリだし、もしかしたらそんな環境の割には
いいほうかもしれないとは思ったが
その頃の田舎から出て行ったばかりの私には
彼はまるで小学校の頃に読んだ
『長靴をはいた猫』の一番下の末っ子のように感じた