速水の悩み

速水はこの、ネットAVのカリスマ
どんな奔放なことも華麗に美しくやりとげ
その息遣いに本当の興奮を秘めている
そして、その美しい肢体
それはAVのために生まれてきたような
服を着せて街を歩かせたら、ダサいのだけれど
ひとたび、服を脱げば大天使へと変わる

みぃもすごかった
みぃは速水が自分と全く同じだと思っていた
それは、ミキや康太が恨んで嫌うあの母の遺伝子で
それは、この仕事をするために生まれてきたような人間だ

しかし、違っていたのは
みぃは母に育てられたのだ
正二のところに行く前、ミキに育てられたのは
ほんの数年だ
だから、世間のこの業界に関する差別や偏見は全く知らなかったし
自分の性を見せてお金に変えることに
なんの心の痛みも持っていなかった
ミキに育てられた速水とは全く違う
まだ、物心つかない頃から
違う男をとっかえひっかえ追いかけ
みぃをその場に置いていても
男の体にしか興味なかった母を見て育ったのだ

速水は父親は教授、母はそんな母を全否定して生きてきたミキ
その違いに気が付かなかった

発達障害の母

そこからは二人が決めることだ

田舎に住んでいた昔の私は無知で子供だったから

何も見えなかった

あの頃の私ならば、今度のことなんか何も見えなかった

母もそうだ、

母は直感で妊娠しているのではないか

そう考えたし、昔、近所で会った兄妹相関のことは思いついても

そこは知らんふりをするのだ

それが現実であったとしても

どうにもならないことだ

私も道徳家でもなければ、おっせかいなおばちゃんになるのも嫌だ

そして、いいことをしたと思っても

実際遠い将来、それがもっと、ひどいことになるのか

そこから奇跡のように素晴らしい人間が現れるかもしれないのだ

そんなことを東京の友人に話したら

たぶん、それはロクなことにならないってほうが

正しいと思うよ!なんて言われたが

まともな、いや、世の中の良識的な

家庭に育った彼女にはわからなかっただろう

理不尽な生まれの人間にも世の中を登っていける

チャンスがあると言いたいし

そう言う理不尽な生まれのほうが危ない道への誘いも多いが

もしかしたら、それを反対のエネルギーとして

登っていく者もいると思いたい私は良識も何もあったものじゃない母から生まれたから

速水の悩み

ホテルに入るといつも通りにタケオが待っている
みぃが与えてくれている一番最近の男
一晩の額はそれなりだから
顔もスタイルも間違いない
俳優志望らしいから全く素を見せることなく
速水の相手をする
今まで、ハーミーとわかるとやたら興奮したり
お金を吹っかけてきたり
口止め料を請求してきたり
とうっとおしい反応が結構あったが
一晩か二晩で飽きてしまっていたので
記憶にとどまることもなかった
それは、高校生の頃、クラスの男子誰でも良かったのと一緒で
結局、速水にとって男ならだれでも良かったのだ

ところがタケオに対してはどうも今までの自分とは違っている
みぃはすぐにそれに気が付いて
もう、やめてもいいと言ったのかもしれない
みぃは正二を想っていたころの自分を思い出したのだ
正二が姉であるミキに惚れていることの辛さとか
確実に誰と寝ようと性の関係と愛していることは
全く別だと理解していたのだが
それはそれでつらかった

速水には愛する相手ができた時に
今の仕事をさせる残酷さはわかっていたから
タケオだけのものになればいいと
みぃは思っていたのだ
年齢が行ったとしても、速水さえこの仕事をやりたいのならば
別にみぃは何も言わないと決めていたのだ



発達障害の母

中高生の恋は都会も田舎もない

あまりに稚拙で人生を棒に振ることもある

亜美ちゃんは家庭の中で、相手は弟だ

とりあえず、今回は手を出したが

これからは二人の問題だ

 

「帰ったら、哲也君とちゃんと話して

亜美ちゃん自身が今どうしたいかを大事にするんだよ

早くあの家を出て

それでも二人でいたいのならば、それから考えればいいよ」

 

その言葉を最後に私は亜美ちゃんに二度と連絡を取ることもなかったし

亜美ちゃんからも連絡はなかった

 

数か月後、母から

 

「あそこのおばあちゃんが自慢しに来たんだよ

孫が東京の大学に合格したんだって

入学金から、アパートの家賃まで出してやるって

大喜びしてたよ!

そう言えば弟は中卒で就職するらしいよ

お姉ちゃんは賢いのにね~」

速水の悩み

優人にはそこは理解できなかったが
二人とも、これは好きなことを好きにやった結果
莫大なお金になっただけだから
何かあったら、やめればいいだけだと
考えているのだろうと思う

それでも、やはり、今日速水に辞めてもいいと言って
今日から来なくなっては
お金の問題は処理できても
多くの人たちに迷惑は掛かかる

そう考えながら
速水を送る車の中で

「速水、みぃさんが辞めてもいいって!」

速水は興味なさそうに

「ふ~ん、まぁ、この仕事だと二十歳過ぎたら夢がないよね
じゃぁ、仕事はもう、受けないで」

悩むこともなく即答でそう言われて

「え?本当にいいの?
まだまだ、ファンはやめてほしくないと思ってるよ」

すると、面倒くさそうに

「だって、ファンのためにやってるわけじゃないから」

そういう速水にファンである優人は幻滅もするが
そう言うのがハーミーのキャラだろうとも思うので
妙に納得する

発達障害の母

「そう、でも、どこの家庭もそんなものよ

親は親で悩みも多いし

そんなに子供のことに構っちゃいられないのが

普通の家庭よ

亜美ちゃんは優等生だから余計

心配しなくてもいいって思ってるんじゃない?

弟君のほうが心配かけそうだけどね」

 

すると、亜美ちゃんは怒ったように

 

「あ、違うんです

哲也は誤解されやすいけれど

本当は優しくて、人の痛みがわかる子なんです

勉強はしないけど

やったらできるんです」

 

そう言う目を見ると、妊娠には困ったが

実際は弟の哲也君を恋愛対象としているのかもしれない

それは、私には止める権利はない

ただ、多くの高校生と同じように

今、子供を作ってっていうのはだめだろう!

 

 

速水の悩み

風の噂で高校で消えたと言うのは聞いていたが
どうせ、外国に留学でもしたんだろうと思っていた
それでも、ハーミーの映像をを何度も見ているうちに
もしかしたらとは思っていたが
ただ、似ているだけであんないいとこの子供が
ネットAVの神には間違ってもならないだろうと思っていた

マネージャーになってからも
もう、小学生の頃の速水はまったくそこにはいなかった
妖艶なのに透明で、それは、映像を離れていても
やはり、妖艶だった
そして、いつも妖艶な彼女には
一週間のうちに最低三日は男が必要なのだ

もちろん、その男たちは
みぃの手配だから間違いはないのだが
優人は心配で仕方なかった
みぃに進言したら、一笑された

「もしこのことがすっぱ抜かれても
全く構わないのよ
私にも速水にも失うものもないし
誰に何言われようとかまわないのよ」