発達障害の母
「自分がどんなに頭がいいか
そして、どんな風にお金を貯めたかを自慢したくて仕方がない人だった
だから、爺さんを殺して、ついでに三ちゃんも殺して
火災保険も手に入れて、一石三鳥だったって自慢したかったんだけど
さすがにそんなことは言えないって頭だけは残っていて
ボケてから我慢できずにしゃべりだしたんだろう!」
友くんの怒りを抑えた声が、真実だと言っているようだった
「そんなにまでして手に入れたお金、結局
何に使いたかったの?」
「さぁ、農協の通帳に入れて見て喜んでいたんだろう
でも、旦那にパチンコ用に無理やり取られていたけどな」
「ああ、今の特養老人ホームのお金も
遠い親戚の人が千絵さんの家も土地も売って
入れたって言ってたからな」
「え?お父さんは?」
「とっくの昔に知んだよ
ああ、そういえば、あれも火事だったな
酒飲んでいて逃げ遅れたとか
もしかしたら、あれもそうかもな・・・・」
康太の深淵
発達障害の母
「家まで送って行くと
三ちゃんはあの性分だから
俺たちに水でもくれようとして
寄って行けって腕を離さないんだ
水って言ったって砂糖が入った麦茶だったけど
三ちゃんはそれを水って言ってたな」
友くんが懐かしそうにしゃべる
「ああ、あれはあそこのおばちゃんが
お隣に、よく、砂糖を借りに行くんだよ
自分ちに砂糖があるのにさ!
あそこのおばちゃん、昔からケチで有名だったからな
だから、麦茶の砂糖入りも水って言ってたのさ
三ちゃんはそんなことはわからないまま言ってたんだけどね」
「ああ、あそこのおばちゃん、ボケるとは思わなかったな
だって、とにかくお金に細かいしケチだし
そういうことになると頭が回るってみんなに言われてたもんな」
友くんがあきれたように話を続けた
「そんで、家に入ると、三ちゃんはそれを湯呑に入れて
俺らにくれるんだよ
でも、それがおばちゃんに見つかると
俺らがいる目の前で三ちゃんを火箸で叩くんだ!
俺ら一度、それを見てからは三ちゃんちに行っても
絶対、何も食べないよう、飲まないよう
気を付けたんだよな
あのおばちゃんの様子を見てたら
ああいうこと、やりかねないような糞ババァだったんだ」
康太の深淵
発達障害の母
「もう、ボケているからって、本当のことを
言うとは限らないでしょう?」
私は二人がどんな風に考えているかわからないので
何となく言ってみる
すると、二人とも驚いたように私を見て
友くんのほうが
「ああ、ネコ、あ~ちゃんは知らないはずだよ
あ~ちゃん、小学校の頃、あんまし三ちゃんと
遊んでなかったし・・・・」
私はそう言われて、あの当時の心境を二人に話した
二人は『それはわかる』と納得してくれて
それなら余計わかんないなと二人で頷く
「俺や友はだいたい、毎日一緒に帰ってたんだ
あの頃、上級生には腐った奴が多かったから
俺らが一緒じゃないと、三ちゃんは何されるか
わからなかったんだ
三ちゃんが、また、何でも言うこと聞くからなぁ」
康太の深淵
発達障害の母
三ちゃんのことは同級生たちはどう思っているんだろう?
それが知りたくてコーヒーを飲みに行く
いい具合にネコと友くんがいた
「おお、あ~ちゃん、久しぶり
だいぶ、家のなかで暮らすのに慣れてきたんだな」
「母ちゃんに慣れてきたか~、ぶっとんでるもんな
あ~ちゃんのかあちゃん」
すっかり二人には気心が通じて安心できる
「うん。お母さんの友達のおばちゃんたちが
結構な頻度でやって来て、まぁ、話し込んでいくからね」
すると、二人が顔を見合わせて
「やっぱりな!三ちゃんのことだろう?」
「俺たちも今、その話してたんだ
今や村中、その話で持ち切りだからね」