発達障害の母

「両親が悩んで子供の将来を

考えてあげるなんて理想の家庭は

うちにはなかったの

だからこそ、私自身は

幼稚園にあげるのですら

子供にあったところをって

一生懸命考えたんだけどね

だから、恵子ちゃんの気持ちはとっても

よくわかるわ」


「幼稚園からですか......

私、遅かったのかもしれませんね

友人に都会の人が多いから

幼稚園受験、小学校受験があるのは

わかっているのですが

この田舎で、そこは選択の余地は

なかったし

私は高校まで実家で苦労したから」


そう、それがいいか悪いかはわからない

でも、やってみたいんだったら

やったほうがいいと思う

私も恵子ちゃんもそんな風に親から

されたかったのだ


全く何もないまま

みぃはここに来てから
なんとなくわかっていた
正二がミキに惚れていること

「いや、違う!」

「ほんと?お姉ちゃんのこと
好きだからじゃないの?」

正二は不思議に思った
みぃは頭の回転は早い
そうじゃないことくらい
とっくに分かっていたと思っていた
その正二の目を見て
みぃは

「あ、違うのか」

「うん。
俺がこの事業を拡大するのに
どうしても、覚せい剤ははずせなかったんだ
もう、昔からこの小屋は
そういう客も付いていてさ
どうしても、そこを切ることは
できなかったんだ」

発達障害の母

「見た目だけではわからないんですね

私はあんまり噂でしかわからないくらい

御宅のお母さんは村の人たちが

少しオーバーに言っていて

実際話すと普通の人にしか思えないんだけど」


そうだ、もう、私たち世代くらいは

よっぽど母と深い付き合いをしなければ

そんなにわからない

母自身もなんとか上っ面は誤魔化す

すべを身につけている


しかし、小さい頃学校で一緒だった

祖父母世代はよく知っている


学校でみんなと同じようには

教科書も読めないし、字も書けない

そして、青春時代

これぞと見つけた男には体をぶつけて行くように

つきまとう


うちの父はその誘惑に負けて

結婚してしまった、と言ってもいいかもしれない


「そう、だから、弟と二人

私たちは将来を考えるなんて

全くなかったし

父もそうだけど、母から逃げることだけ

考えていたのよ

全く何もないまま

みぃはミキの妹だからという
そんな気持ちなんか忘れさせるくらい
才能に溢れていた
だから、正二の知っていることは
全て叩き込んだ

「これで、全てかな!
みぃに全てを譲るから
好きに使えよ!」

正二がそういうと
珍しくみぃが

「ねぇ、ちょっと、聞いてもいい?」

神妙に言い始めた
だいたい、みぃはいつだってふざけている
ふざけていても、頭に数字は入るし
面白い企画はドンドン出してくる

「ん?」

「全てくれるのってお姉ちゃんのため?」

発達障害の母

「ううん。

私にはよくわかるわ

私はあの母だから

子育てとかじゃなく、とにかく

他の人と同じようにしなきゃ

言われた通りにやらなきゃ

そんな風に物心着くまで育てられて

自分でトイレが完璧にできるようにいなると

母は自分の生活が精一杯で

これは比喩じゃなくって

掃除とか洗濯とか料理が

毎日同じ状態で完成されて

そこから、多くの主婦は自分なりのやり方や

工夫、手抜きをしていくんだけど

母は成長ってできない人だから

未だに炊飯器でご飯を炊くのにも

毎日、ばらつきがあるのよ

メモリとかグラムの概念がわからないのね

だから、子供のことにまで

頭は回らなかったのよ

仕方のないことだったんだけどね」

全く何もないまま

みぃを連れて来たのはミキだし
その頼まれごとには全力で
対処してあげようと思ったが
みぃの中には姉妹とはいえ
ミキに惹かれたような雰囲気は
一つもなかった

みぃはどっちかというと
正二と同じ種類の人間だった
自分の生い立ち、環境なんかには
全く興味がない
あるのは前だけ、
そして、自分が今持っている
才能がどこなら使えるか
それしか考えない

同じ匂い同士なのにみぃには惹かれない

発達障害の母

「それは、母親としては

だれだってそうよ

ひと時代前だと産んでやったみたいな

感覚だけど

私としては産んだ責任は重いと思うわ

子供は親を選べないんだから」


「あ、その通りです

あの子を生んだ以上幸せになって欲しいし」


「中学受験で悩んでるんですって?」


「夫はここで生まれて、それなりに苦労して

今の自分に納得しているんです

私だってここで生まれてここに帰って来て

納得してるし、幸せだと思ってるんですけど

樹奈はまだ、ここの中しか知らないでしょう?

少しでもいい環境で学んで欲しいと

願うことはいけないことでしょうか?」