全く何もないまま

沢村が現れた時に
正二は恐怖に襲われた
ミキに入れあげる客はたくさんいた
お金に糸目をつけないやつ
若い学生、社長、じいさん
色々いたが、なんの心配もしていなかった

ミキが惚れそうな相手ではない
しかし、沢村は違う
ミキの理想通りの相手だ

その時が人生で一番辛かった
正二は、その時に初めて
自分の生まれた場所を呪った

しかし、遠くから眺めることしかできずに
静かに諦めた

そしてみぃ!
ミキの妹とは言われなければわからない
しかし、正二はが理想とする
風俗の女の子だった

発達障害の母

「母は紅茶の味とかわからないよ

恵子ちゃんも知ってるでしょう?

ま、しょうがないよ

今日は村長の美しいお嫁さんが

来てくれるって大喜びしてたよ

でも、買い物に行ける方が嬉しいんだけどね

私がついていかないから余計にね!」


そう言って笑うと恵子ちゃんも

母の事情はよく知っているから

笑いながら


「それでも、立派に子育てしたんですから

大したものですよ

私は子育てに悩んでばっかり」

全く何もないまま

「わかってる
正二さんの方が正しいって
でも、ダメなの」

どんな言い訳よりも
正二は、この恋が叶うことはないと思った

「できるだけ力になるから
まぁ、気が変わったら
頼むよ」

そんなことを言う
ミキも笑いかえす

正二はそれから余計
仕事に没頭して
自分の店で働いているミキを
ずっと思い続けていた

その間にじいさんが死に江さんも死んだ
今やかなりの財産を作ることもできたのに
正二は高級マンションも
高級車も美味しい食べ物さえ興味がなかった

発達障害の母

「じゃ、ちょっと、恵子と

喋ってもらおうかな」


また、次の日に恵子ちゃんが来ると言うと

母は大喜びで

村長の美しい嫁など

自分一人の時には絶対来ない

来るのも嬉しいし


「じゃ、明日もまた

買い物に行っとくよ

何かお茶請けに出すかい?

この間私が作った漬物があるよ」


母の料理は大体の確率で

髪の毛が入っている

私ならなんとか我慢できるが

人になんか出せやしない


「うん、わかった」


適当な返事だけしておいた


次の日、恵子ちゃんがやってきた

私は母の漬物を出す代わりに

とっておきの紅茶を入れた


「ありがとうございます

うちのにあ〜ちゃん

あ、うちのがそう呼ぶもので

ごめんなさい」


あ〜ちゃんでいいよ

ゆっくりしていってね


「これ、美味しい!

カップも素敵ですね

お母さん幸せですね

東京から娘さんが帰って

こんな美味しい紅茶を入れてくれるなんて」

全く何もないまま

正二は不思議そうな顔で
ミキを見た
ミキは正二が言いたいことがわかった

「そうだね
大多数に憧れるのって
なんかダサいね
その点、マネージャーはすごいなと思うよ
そんな瑣末なことにとらわれることなく
自分の才能を伸ばせる道に突き進んで
今や莫大な財産なんでしょう?」

「いや、祥子ちゃんのことを
ダサいとか思わないよ
でも、じいさんに後見人になってもらわなきゃ
まだどうしようもならないけどね
未成年って不便だよな」

「ううん、馬鹿らしいって思うよ
でもねぇ、なんかどうしても
普通に憧れちゃうのよ」

発達障害の母

大したことはなさそうな中学だった

いや、この辺りから入れば

お嬢様だろうが.......

その、出身者という女優もそんなに

有名ではない


しかし、東京の私立に行く子だって

そう、有名なところに行く子ばかりではない

恵子ちゃんの虚栄心だろうか?

いや、虚栄心だって悪いわけじゃないが


「それよりも樹奈ちゃんの成績の方は

大丈夫なのかな?

ごめんね、中学受験は高校受験とかとは

ちょっと、違って、学校の成績が良いからって

合格するとは限らないから

大概、みんな塾に行くか

それ専用の参考書をやらせるのよ」


ネコはすっかり困ってしまった

田舎の小学校なら娘の樹奈は

ダントツによくできる

しかし、恵子がどこまでわかっていて

そう言っているのかはわからなかった


全く何もないまま

じいさんは普通なら眠りこけている時間に
学校にやってきて場所取りをしてくれた

江さんは料理は下手くそで
弁当なんか作ったこともないくせに
わけのわからないオニギリを
持ってきてくれて

それを心配した他のお姉さんたち
デパートで豪勢な弁当を買ってきた

そして、どんちゃん騒ぎ
もちろん、ビール持参

昼過ぎには教師が飛んできた
正二は運動なんか大嫌いだったから
美味しい弁当!派手なお姉さんたちの奇声
じいさんのヤジ!
楽しくて仕方がなかった

そういえば、正二は今まで
他の普通の子を羨ましいと
思ったことはなかった