「二人とも賛成したの?
速水ちゃんの夢だったの?」

アイドルに憧れるようには見えなかった

「ううん、何かあったんだと思うよ
みぃが連れて行ったんだ」

ハツホはみぃのことは
なんとなくしか知らなかった
なんとなく聞いてはいけない人だと
悟っていたのだが
ここは聞いて見たい

「ねぇ、聞いていいのなら
みぃさんのこと教えてくれない?
私たちの結婚式にも来なかったし
どんなことを聞いても驚かないから」

康太は別に隠す気もなかったし
ミツホがそんなことで離れて行くとも
思わなかったが

ただ、口にしたくない
それだけだった

「うちの母親のことは知ってるだろう?
その母親がみぃがまだ小さいうちに
連れ出したんだ」

発達障害の母

へ〜私がここにいない間

いろんなドラマがあったんだと感心する

この空気が膿んだような村なのに

そんなドラマみたいなことがあったのか

そう感心していると


「ドラマみたいだって思っただろう?

でも、本当のドラマはここからなんだ

もう、数十年も前に崖崩れがあったの

知ってるだろう?

康太は彼女が速水だと知っている
でも、あえて今までは話さなかったのだ
今でも母のことは胸に刺さり
速水を見ていると
母を思い出す

妻であるミツホは康太の母に対する
コンプレックスは知っている

「彼女は姉さんとこの娘
速水ちゃんだよ!」

ミツホは信じられない

「え?嘘でしょう?
だって、顔が違うわよ
あんなに派手な子じゃなかったし
もっと、普通のお嬢さん」

ミツホが最後に彼女を見たのは
高校入学のお祝いに遊びに行った時だった
入った高校に少し意外な感じは抱いたが
教授とミキが速水にはまったく
学力に関わる教育はしていなかったから
それはそれで、感心したものだった

発達障害の母

なんだか、横溝正史かなにかの

小説でそんな話を読んだような気がして

この村は八つ墓村か!とツッコミを入れたい

ところを我慢して


「それで、あの子が彼の子供って

どう言うこと?

私の知っている限り

彼に農協の勤めるような

立派な子供ができるなんて

考えられないんだけど」


「だろう?

それが、あ〜ちゃんがいなくなった後

それもだいぶ後だけど

県の方から、何かの視察に

数人の県職員が来て村に滞在したことが

あったんだよ

その中の美人の係長さんが

彼の母親なんだ

すっかり、ここで彼にハマっちゃってね

確か、かなり年上だったんだけど

ここに越して来て

一緒に住んで、子供を産んだんだ」


聞きながら、その当時の彼を思い出す

そう、確かに抗いがたい魅力のある

男だった

速水はあれよあれよと言う間に
売れ始め、みぃの手腕で莫大なお金が
入ってくるようになった

その派手やかに
そして、妖艶なビジュアルは
あの高校の頃の同級生が
誰も、あの、速水とは絶対にわからないほどの
美しさだった

沢村とミキですら
ネットから流れる速水の映像
テレビで受け答えする速水に
自分の娘を重ねることはできなかった

みぃは速水には暇さえあれば男を与え
速水はそれを糧に
清純派アイドルのトップになっていた

テレビから流れる速水の映像に
康太はすぐにチャンネルを変えた

「あら、どうしたの?
この子、今、すごい売れっ子なのよ
ほら、私、兄さんの小説が好きでしょう?
あの主人公みたいな気がして
心が惹かれるのよ」

発達障害の母

30数年前がパッと蘇って来て

なんて馬鹿な娘だと

自分に腹がったったが

友くんにして見れば懐かしい思い出で


「俺さぁ、よっぽどあ〜ちゃん

注意してやろうと思ってたんだぞ

ま、あ〜ちゃんは村の人間が考えてたより

数倍頭が良かったからな

あ〜ちゃんがいない高校の三年間

子供を孕ませたやつとか

首くくろうとしたやつとか

あ、キサなんかここから10キロも先の

ほら、小学校の頃

よく探検とか言って、みんなで滝の裏に入って

怒られた、あの滝

あそこに飛び込んで大騒ぎだったんだぜ」


私は笑いながら


「そんで、キサは村一番の

泳ぎが達者な子だったから

助かったってわけね」


「その通り、あの滝から飛び込むのは

小学校の頃からのキサの特技だもんな

一つ下の陽子なんか

家のお金持ち出して渡してたり

本当に、あの三年間はあいつのせいで

大騒ぎの年だったなぁ」


発達障害の母

「あの頃、村中で心配してたんだ

この村から初めて大学に行く子なのに

あんな奴に捕まって

どうなるんだろうって

あいつの女グセの悪さは有名だったんだけど

あいつの叔父さんが博多あたりから来て

ヤクザみたいな奴だったから

誰も何も言えなかったんだ

こう言うことって普通なら

母ちゃん同士でなんとなく注意したり

村の力あるばあちゃんがしゃしゃり出て

話したりするのに

あ〜ちゃんちって

母ちゃんが、まぁ、あれだろう?

だから、まさかおじさんに言うのもなぁ

2週間くらいの間だけで

あ〜ちゃんは東京の大学に行くからって

みんな、ハラハラして見てたんだ」


自分のことで真っ赤になって

ああ、やはり、私が知らなかっただけで

母のことはみんな知っていたのだ


「そしたら、あ〜ちゃん

すぐに立ち直って、

しっかり東京に旅立って行ったから

村中で安心したんだ」