街の灯り

何事もまじめになることがなく
世の中をクラゲのように生きていて
莫大なお金を動かしているみぃが
珍しくまじめにミキを見つめる

「正二はお姉ちゃんのことが
本気で好きだったんだよ
だから、私のことは本当の妹のように
大事にしてくれたんだけど」

それは、ミキもよくわかっている
ミキだって正二の気持ちはわかっていたが
風俗なんかが世の中にあることすら
呪っていたミキと
風俗の世界の申し子のような正二
どんな素人の女の子もやり手の風俗嬢に仕上げることができ
お客の喜ぶ企画を考えるのは天才的で
彼に任せておけば、この仕事で莫大に設けることができる
ネットの中のその手のサイトだって
彼が始めたものが数限りなくあるのだ

その彼がみぃに子供を産ませたとなると
そこにはやむにやまれない事情はあったのだろう

「みぃが正二のこと好きになっちゃったのね」

「そう、後にも先にも男を本気で愛したのは
彼だけ、なのに彼は私を抱いてくれたその時ですら
お姉ちゃんのことを想ってたんだよ」

生々しい話だが今は、もう、遠い昔のことだ

発達障害の母

ネコはさすがに村長だ

雅ちゃんが一人になってからも

ちゃんと食べていけるように

仕事を考えてあげている


「いや、ありゃ、仕事なんてできる

状態じゃないぞ

子供もできなかったし

旦那にベタ惚れだったから

立ち直れないんじゃないか」


そんな話をして帰る

雅ちゃんの幸せなんか私には関係ないけれど

やはり、同い年だから

彼女のこれからを思うと心配になる


母は私が帰ると最近、私の機嫌をとる

母の知的障害はわかっているのに

どうしても何かと厳しく言ってしまう

私が悪いのだ

それでも、普通に食器の始末や

洗濯、掃除がまともにできないところを

目の当たりにすると

この80年近くどうして成長することなく

生きていることができるのかと

イライラしてくるのだ

街の灯り

「いらっしゃい
お姉ちゃん、寂しいでしょう?
まぁ、ゆっくりしていってよ
速水は幸せに楽しくやってるからさ」

「ありがとう、速水のことは本当に
感謝しているわ
それよりも、子供」

「あ~康太のところ?
プレゼントしすぎたかしら?
だって、本当にうれしいんだもん
速水と二人でプレゼント選びしてて
つい、ハイになって買いすぎちゃったんだけど」

「そうじゃないの
そうじゃなくって、みぃの子供
今、スイスにいるんだって?」

みぃは不思議そうに

「あれ?お姉ちゃんに話さなかったっけ?
速水より二つ上
かわいい子だよ~正二、そっくり!」

やっぱり正二の子供だったのだ
正二だったらみぃには手を出さないだろうって
安心していたのに
みぃそのミキの顔色を見ながら

「正二が私に絶対手を出そうとしなかったのは
確かなんだよ」

じゃ、なぜ?

発達障害の母

ネコは笑いながら

 

「俺だって、あんな爺ちゃんや父ちゃん

恥ずかしいだけだったよ

子供のころは村の誰彼に爺ちゃんが余計なことを言ってるのを

見るたびに、穴があったら入りたかったよ

あ~ちゃんだけじゃないさ」

 

「ま、いいじゃん

二人とも死んじまったんだからさ

あ~ちゃんは苦労しに帰ってきたようなものだけど

もう、みんなわかってるし

あ~ちゃんも東京で立派にやってるって

感心してるからさ」

 

友くんもずいぶん優しい

 

「そういえば、雅ちゃん、いよいよ

追い出されるらしいよ

雅ちゃん、妹から慰謝料を絶対もらえって言われてるけど

そんなの絶対出すいえじゃないからなぁ

雅ちゃん、実家かえるしかないよな

もう、この年じゃ仕事もないし」

 

と、友くん

 

「あそこの旦那、うまいことみっちゃんの後家さん

捕まえたからな~

まぁ、あの家の爺さんのこと考えたら雅ちゃん

いい嫁ではなかったしなぁ

あ、そういえば道の駅でレジの仕事でもやってもらえると

いいんだけれど」

街の灯り

こんな大事なこと、どうして話してくれなかったのか
康太も康太だ
しかし、康太の気持ちはわかる
自分たちの血が流れる子供がいる
それが女の子ではないにしても
ミキに話しづらかったのはわかるが
それにしてもだ
沢村と結婚して速水をみぃのところに送り出すまで
すっかり忘れていたのだ
本当に普通の子供だと思っていた速水との
あこがれていた通りの、親子三人の生活
確かに、それを満喫しているミキには言えなかっただろう
みぃには速水を送り出すまで
会わなかったのだ

みぃのところにすっ飛んでいくと
速水は海外に撮影で行っているという
速水には会いたいと思うし、食事を作ってあげたい
洗濯をしてあげたい、そう思うのだが
もう、そんなところには速水はいないし
みぃははっきりは言わないが
速水はそんなこと願ってはいない
たぶん、執事のような男がいて
すべて面倒を見てもらっているのだ
本当にすべて・・・・・・

発達障害の母

雅ちゃんに最初に会ったから

なんとく村中から

下に見られているのは

子供の頃から何十年立っても

変わらないんだと

母のことさえなければ2度と帰ってこないのに

そう、思っていた気持ちが

す〜っと消えていく


友くんのことは気があう話しやすいやつだと

そうは思っていたが

あの当時は私も母のことで

できるだけ子供同士では話さないように

気をつけていたし


ネコの家は何はともあれ村の1番のお偉いさんで

そこの爺さんは遠慮会釈なく

父の顔をみると


「お前の少し足りん、嫁は面白い

村で集まりをやって酒が出るときは

必ず連れてこいよ!」


なんて行ってた人だから

ネコがいいやつでお人好しなのは知っていたが

そばには寄らないようにしていた


街の灯り


「今、スイスの寮のある学校に行ってるよ
15才の男の子」

ミキは慌てて逆算してみる
今、その男の子が15才ならば
みぃの16の時の子供ではないか?!
あの頃、ミキは正二を思い出した
彼を信じてみぃを託したのだ
正二ならば間違いはないと、あのとき委ねたのだ

いったい、なにがあったんだろう
もちろん、みぃは頭も切れてしっかり者で
その世界では有名人、大金持ちでもある
今更、みぃに関していろいろ言うことは何もない
ただ、あの頃なら自分のせいだ
そう思うと、いてもたってもいられなくなった

「みぃのところに行ってくる」

康太は笑いながら

「うん、いいかげんみぃからちゃんと聞いたほうがいいよ
たぶん、本人は隠している気もないだろうから」