速水は話が自分のこととは思えない
アイドル?何?え?自分が?

「うちのプロダクションの社長
呼ぼうか?俺もこの子すごいと思う」

速水はその時に彼が演歌で有名な
イケメン歌手だと気がついた

「そうね、彼に頼んだ方がいいわね」

そう言うとすぐに電話をしている
速水は慌てて

「あ、あの、私、歌、歌えません
踊りも無理だし......」

みぃはニヤリと笑って

「歌なんかどうでもなるよ
でも、うちの爺さんとママは
少しは歌えていてから
速水も大丈夫じゃない
それに、速水もの売りはそれじゃないから
任せてちょうだい
あ!でも、すごく嫌?嫌ならやめるよ
でも、速水の才能はそこにしかない気がするけどね」

発達障害の母

今日は珍しく若い人が多かった

この、小さな村で若い人を見ることは

ほとんどない

このカフェでも通りすがりの

ドライブの途中の若者は

たまに見かけるが

今日の4、5人はなんだか地元っぽい


「マスター、あれってここの人?」


「ああ、役場の若い職員

月イチくらいに皆んなで

昼飯あとに来るんだよ」


そう、言いながら忙しく動いている

彼らはコーヒーではなく

街のスタバのようなメニューを

頼んでいる

この店にそんなメニューがあるのを

初めて知った


「今度の春祭り

農協の若いやつらも

手伝ってくれるって」


そんな会話が漏れ聞こえる

すると、修也は
驚いたように

「この子、確かに、昔の
みぃさん以上だわ
みぃさんみたいに顔が良くないぶん
伝わってくるパワーが半端ない
え?
どんな分野に使うの?」

「修也はどこがいいと思う?」

「エロじゃないアイドル!
山口百恵の再来かもしれない」

「一緒!私もそう思う!」

修也は嬉しそうに

「でしょう⁈
この子16くらいかしら?
スタイルもいいし
なんたって、この普通さ!
アイドル志望の子には
絶対ないわね~」

発達障害の母

毎日コーヒーを飲みには行くが

時間は決められない

母私の手がいるわけではない

生活ははたから見れば

ほとんど普通だししっかりしているし

体の健康も申し分がない

でも、私が一人で外に出たり

用事をしたりするのを極度に嫌がる


「せっかく一緒にいるんだから

なんでも一緒にしようよ

家族なんだから」


そう言うから、できるだけ一緒にいるようにしているが、昼寝をしている間は

なんとか抜け出さないと私の神経がおかしくなる

それが、いつも決まっているわけではない

騒ぎまくる子猫のように

ネジが切れたらコトンと寝てしまうから

そこを見計らってコーヒーを飲みに行くのだ

「何?
また、新しい子を仕入れたの?」

そう言いながら入って来たのは
速水が今まで見たこともないほど
イケメンで細身でおしゃれな男だった

速水は部屋に男が入って来た途端に
モードが変わる

「速水っていうの
この子、私よりすごいかもしれない
修也、この子はあんたのセンスで
メイクして見て」

姪だとは言わなかった
修也はしばらく速水を見ていた
ミキが選んだアニエス・ベーの白いブラウス
黒のプリーツスカート
黒いタイツに赤いバレーシューズ
化粧などしたことのない白いを染めている

速水はじっと見られて体の中が
濡れてくるのを感じる
あの、教室で男子に見つめられている時と
同じ気持ちになる

みぃは速水を上から下まで丁寧に見る

「ちょっと来て!」

そう言うと速水を別の部屋の
大きな化粧台の前に座らせた

「う~ん、よし、ちょっと、待ってて
うちのメイク担当の修也に来てもらうから
あ、同じマンションだから時間はかからない
今頃は部屋で寝てるんだろうから」

そう言うと電話をした

「修也?メイク道具持って
速攻、私の部屋に来て!
え?今。恋人が来てる?
一緒に連れて来れば、どうせあいつでしょ」

電話を切ると

「このマンションの下の方に住んでるのよ
恋人ったって男だから驚かないでね!
ん?知ってるよね
そういう関係とか?」

この部屋もそんな世界もただただ、驚く
それに速水は男の体がなければ
生きていけないタイプではあるけれど
性にかんしてはウブそのもので
ほとんど知らないと言ってもいい

発達障害の母

少し意地悪な小学生のように

大人なら絶対にしないような

言い方をしたりする


教師が少し言い間違いをしても

すぐに揚げ足をとって喜ぶように

相手の間違いを遠慮会釈なく

笑い、蔑み

そして、その後も長いこと言う


この嫁は少しおかしいと

許そうと思っても

人間だから、それは嫌な気持ちになる


嫁にもらった一族としては

一生懸命、優しく接しようと

努力はするのだが

その辺りの母の態度では

普通の人は少し辛く当たってしまうのも

仕方のないことだ