康太の深淵

結婚してはっきり気がついたこと
ミツホは口癖のように

「文学が、文学が!」

と喋るのだが、実際に暮らしてみると
本は読まない大学時代は試験や
レポートのために読んでいたようだが
結婚すると、専業主婦になる道を選んで
まず、家の中の細々とした用事を
一生懸命にやり始めた

いや、そう康太は信じていた

家に帰って来て
食事の用意ができていない

「インスタントラーメンでいいかしら?」

康太は別にミツホに専業主婦を強いた
わけでもないし、食事の用意を女がする
なんて前時代的なことは思ったこともなかった

康太は実家で姉といる時から
姉の苦労はよくわかっていたので
家事は自分から率先してやっていた
だから、もちろん、インスタントラーメンで
全く構わないのだが.....