.....の無い

その頃、大学構内で
流行っていることがあった
ここの学生というよりも
外部のカップルが
沢村の小説を読んで
聖地巡礼でもするように
あの銀杏の並木道で一緒に
珈琲を飲む

友人が康太に

「なんだか、いいのか悪いのか
俺なんか年齢イコール彼女無い暦だから
なんだか、安っぽい気がしないでも無いが
沢村教授の小説が巷では
売れに売れてるらしいから
いいことなんだろうう」

康太は沢村の小説に関しては
姉があんなに何度も読んでいるのを知って
不思議な感じがしたのだが
姉の心の奥にも何か人には言えない
恋愛の思い出があるのだろう

「ふ~ん、そうなんだ
俺も女性とは付き合ったことがないから
なんともわからないが」

そんな話をしていると
後ろから

「いいんじゃない
文学は知的レベルに介入することなく
たくさんの人間に広まるんだから」