......の無い

その頃から康太は頻繁に姉のところを訪ねるようになった
姉がずいぶん変わったのだ
二人は家も越して、今の生活をしていると
まるで昔の自分たちの生活がなかったことになったようで
落ち着いて話ができるような気がした
もちろん、みぃのことはあるが
そして、母が今どうしているのかも心のどこかに
あるにはあったのだが、それは奥深くにしまっていた

みぃと母の幸せが自分たちとは全く違うのは仕方のないことだ

「姉さん、今日は鍋を一緒に食べたいと思って
材料、買ってきたよ」

「わ~ありがとう、今日、寒いものねぇ
でも、材料なんて買ってこなくても
ちょっと、メールくれれば用意しといたのに」

康太は大学の費用は知らないうちに姉が全部払ってくれて
家を処分したり、父の保険金の残りもすべて
康太の通帳に入れてくれてあるのを見て驚いたのだ

「姉さん、僕が仕事についたら、一緒に住もうよ
姉さんがいてくれたほうが何かと助かるし」

そんな話をしながら、ふと、テーブルを見ると
あの小説が置いてあった
それも、何度読んだのだろうと思うほどになっていた